「たしかにそうです。だから、僕もディープラーニングはアンチだったんですよね。こんなの研究じゃないって思ってたんです。でも、もう今や、ディープラーニングやらないと他の研究者がやっている性能を超えられないし、ともすると、論文は通らないので、もう、避けては通れないのです。学生もみんなディープラーニングやりたい、やりたいって言ってくるし」

 中身がブラックボックスのまま課題が解決してしまうディープラーニングは、真理の探求者であるはずの物理学徒にとっては、うれしくないけれど、もう無視できないほど強力な手法なのだった。この数年で、森島研でもディープラーニングを主軸にした研究がどんどん増えている。

 2018年の現在、これを「新しいもの」と理解する人が多いとは思うが、今の学生世代にとっては、自らが知的キャリアを積み始めた時点で、すでに実用化されていた手法だ。だから、まったくのゼロから始める必要はなく、既存の環境で行う既存の研究を出発点にできる。これを読んでいる読者のパソコン環境が、Macであれ、Windowsであれ、Linuxであれ、ディープラーニングのフレームワークの「PyTorch(パイトーチ、と発音)」にアクセスして、適したパッケージをダウンロードすれば、たちどころに開発環境、研究環境だけは研究者と同じになって、出発点に立てる。特にゲーマーで、高性能のグラフィックボードを搭載している人は、それだけで有利だ。ぼくはそれを山口さんに教えてもらい、とりあえず自分のMacにインストールした(しかし、残念ながら、「手書き文字」の認識のデモデータを扱ってみただけで、以降、何も始まっていない)。

 まったく恐ろしい時代だ。というか、楽しい時代だ。

「本当にそうですよね」と森島さんも同意する。

若い世代にとってディープラーニングは「新しいもの」ではない。
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「ディープラーニングには否定的だったと言っておきながら、実は僕、30年前の知的通信の研究の時に、ニューラルネットの研究をやってたんです。その当時は、例えば人間の感情を2次元空間にどういうふうに効率的に配置できるかとか、要は2次元の感情空間みたいなものをニューラルネットを使って学習させたりしてたんですけど、実はやってることは今と同じなんですよね。当時は計算機が遅かったので、レイヤーも5層にしたら精いっぱいで、それを1個増やすともう計算が1週間後になるとか、単純に計算してると100年後だとか、そんな時代だったので。今はやっぱり計算のパフォーマンスが上がったおかげで、もっとぶん回せるようになったっていうとこが大きな違いです」

 そして、こんなふうに付け加えた。

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