背景には、やはり、研究スタイルの変化があるのかもしれない。もともと、「学生による研究」を強く後押ししてきたことに加えて、この数年、さらにその傾向が高まっているという。

「確かに、研究室内でもすごい大変革が生じています。今までは例えば画像処理のアルゴリズムとか、基本的なことを勉強してから研究に着手してきたわけです。でも、今はそれをやらずに、人工知能の深層学習、いわゆるディープラーニングでできちゃうんです。これ、手法自体は、中学生でもできるし、データさえもってきて、うまく収束させられれば、大きな成果になるかもしれない。やってみたら出ましたって、何か金鉱を掘り当てるみたいな話になってきています」

 この分野でよく言われるのは、新しい論文を読んでいて、フッとアイデアを思いついたら、ちゃっちゃっとプログラミングして、夜の間にビュンとコンピュータを回しておいて、次の日来たら面白い結果が出ていたので論文にしよう、というようなスピード感だ。

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 山口さんの「1枚の顔写真から、その人の顔の立体形状と質感を再現する」研究もまさにディープラーニングの手法で行われたものだった。一晩でできるような簡単なものではないが(計算に1週間くらいはかかった)、マウスを育てるところから始まる生物学実験や、実験装置を設計するところから始まる物理学実験とは、自ずと違う。

 では、一大変革をもたらすディープラーニングとは何かという話にもなる。ここでその手法そのものを詳しく説明する余裕はないのだが、いくつかの特徴を簡単に書いておく。

 もともと人間の神経細胞の仕組みを模したニューラルネットワークをベースにコンピュータに学習をさせる方法で、その際、ニューラルネットワークを何重ものレイヤー(層)にして重ねて使うことで、複雑なタスクに対応できるようになること。その際、レイヤーをたくさん重ねることを指して、ディープ(深層)と表現しているということ。画像認識は得意分野で、「犬と猫を見分ける」など、人間がプログラムをゼロから書くととても大変なことが、実際に画像を与えて学習させることで高性能に判別できるようになること。その時、人間側は中でどんな処理が起こっているのか分からないまま、結果を手にすることになること。等々。

「顔のCGを動かす時に、その人らしい表情とかをどう再現するか難しいという話をしましたよね」と森島さん。

「これまでは、本人らしさとはなにかという要素を見つけていくことから始まったわけですが、ディープラーニングを使うと勝手に本人らしさを分離してくれるかもしれない。それで、解決できちゃうかもしれないんですよ」

 それは、中身の処理がブラックボックスのままということで、本人らしい表情というのがいったい何なのかという知見にはつながらない可能性が強い。いかに、「応用」物理学とはいえ、サイエンスとしてちょっと嫌なのではないだろうか。

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