第3回 宮原ひろ子(宇宙気候学):宇宙からの視点で地球の住み心地を考える(提言編)

 ですから、光以外の影響を考えないといけません。いろいろな説がありますが、私が一番興味を持っているのは、「地球に飛んでくる銀河宇宙線の量が増えると雲が増え、気温が下がる」という説です。

 「銀河宇宙線」は、宇宙から来る放射線の一種です。私たちの住む天の川銀河には、太陽のような恒星が2000億個ほどあると言われています。そのような恒星のうち重たいものは、最期に大爆発をして終わりを迎えます。その残骸が源になって、宇宙には銀河宇宙線(高エネルギーの粒子)がたくさん飛び交っています。実は、太陽から吹く風はこの銀河宇宙線を遮ってくれているのです。ですから、太陽活動が低下すると、太陽風のバリアが弱くなって、大量の銀河宇宙線が地表付近に届くようになります。これが、大気にぶつかってイオンをたくさん作ることで、雲ができやすくなるのではないか、というのです。雲が増えると、太陽の光が地上まで届きにくくなりますから、寒冷化します。

銀河宇宙線が大気にぶつかってイオンをたくさん作ることで、雲ができやすくなる。(画像提供:櫻井敬久)
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 物理学科ではよく、「霧箱」というのを作ります。見えない放射線が飛んでいることを見るための装置ですが、銀河宇宙線と雲の関係性についてのヒントにもなります。小さな容器にエタノールの蒸気がいっぱい詰められていて、過飽和という状態になっているんですが、そのままでは霧は見えません。蒸気が霧になるためには、何かきっかけが必要なんです。そこに放射線が入ってくると、蒸気がイオン化されて、電気的な作用で1すじの霧ができます。これと似たようなことが地球の大気の中で起こっているのではないかという考えです。

日本の雷には太陽の自転とおなじ周期が見られる

 もし銀河宇宙線が雲に影響するのだとすると、何十年、何百年といった長いスパンだけでなく、毎日の天気のレベルでも太陽が影響してくる可能性があるので、興味を持っていま研究を進めています。太陽はゆっくり自転していて、だいたい27日かけてぐるっと一周するんですね。そうすると黒点も27日に1回地球側に向くので、太陽フレアが放つプラズマの塊が地球側に飛んでくるタイミングも27日に1回ということになります。太陽風は普段から銀河宇宙線を遮ってくれてはいますが、太陽フレアから強い磁場とプラズマが一気に飛んでくると、銀河宇宙線はさらに強く遮られます。ですから、銀河宇宙線も27日のリズムを持つのです。

 27日周期の変動というのが、実は地球のあちらこちらで見つかってきているんです。たとえばインド洋や太平洋の雲。アフリカやインドネシアの雷活動にも27日周期が見つかっています。日本でも、最近の30年弱の雷を調べてみたら、見事に27日周期が見つかりました。

 27日のリズムはまだ天気予報には使われていませんが、これをなんとか太陽の表面から地球の大気の中までのつながりを解明して、長期的な天気予報の実現につなげていけたらいいなと思っています。

地球永住計画公式サイト
https://sites.google.com/site/chikyueiju/

宮原ひろ子(みやはら ひろこ)

埼玉県生まれ、長崎育ち。名古屋大学大学院理学研究科素粒子宇宙物理学専攻博士課程(後期課程)を修了し博士号(理学)取得。東京大学宇宙線研究所などを経て、現在武蔵野美術大学教養文化・学芸員課程研究室准教授。専門は、宇宙線物理学、太陽物理学、宇宙気候学。太陽活動や宇宙環境の変動が地球に及ぼす影響を研究。第5回地球化学研究協会奨励賞、平成24年度文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞。宇宙気候学について解説した著書『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか -太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来』が第31回 講談社科学出版賞を受賞。