第3回 宮原ひろ子(宇宙気候学):宇宙からの視点で地球の住み心地を考える(提言編)

 太陽は水素ガスの塊なのですが、内部で回転が起こって強い磁場が生みだされています。その磁場は、太陽の赤道のあたりに何重にもぐるぐる巻きついていくのですが、そのうち不安定になって内部から浮上してきます。そうして太陽の表面を突き出てきたものが「黒点」です。ここにはとても強い磁場が密集していて、これが「太陽フレア」と呼ばれる激しい現象を起こします。ピカっと光ったり、プラズマ(原子核と電子がバラバラになり、それぞれがプラスとマイナスの電荷を持った粒子として動き回っている状態)が吹き飛ばされたり、といった具合です。

太陽フレアから放出されるプラズマ(SDO/NASA)
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 太陽からは日常的にプラズマと磁場の風(太陽風)がそよそよと吹いているんですが、太陽フレアが起こると強い磁場と大量のプラズマが一気に宇宙空間に放出されます。飛び出した方向によっては地球の方へも飛んできてしまいます。そうすると地球にも影響を与えます。

 現代社会は、人工衛星などの宇宙の技術によって支えられているという側面があって、実は太陽フレアの影響をとても受けやすくなっているのです。GPS衛星、放送衛星、気象衛星など、たくさんの人工衛星によって私たちの生活は支えられています。太陽から大量のプラズマが地球周辺に届いてしまうと、人工衛星が故障して様々なシステムが使えなくなることがあるのです。地球自身が持つ磁場が大きく揺さぶられて、その影響で送電線に強い電流が流れて変圧器が焼き切れてしまい、大規模な停電が起こったこともあります。宇宙飛行士の放射線被ばく量も増えます。とても大きなフレアが起こった場合は、実は旅客機でも被ばく量が増えます。

 こういった社会への影響は、とてもわかりやすい例ですが、それ以外にも、太陽からの影響があるのです。それが気候への影響です。以前はあまり重要視されていなかったのですが、太陽活動が下がると寒冷化が起こる、ということを示すデータが2000年ごろから出はじめて、徐々に認められるようになってきました。

太陽活動が低下して寒かった小氷期

 17世紀、望遠鏡が発明されてから間もないころ、今でも大きな謎につつまれている出来事が起こりました。黒点の観測は1610年頃から始まって、これまでに約400年分のデータが得られてきています。ほとんどの期間では、11年のリズムがはっきりと見えているのですが、17世紀の中頃から、黒点が出ない時期が数十年続いていたのです。これは「マウンダー極小期」と呼ばれています。このころの地球は「小氷期」と呼ばれる寒い時代の最中にありました。

 小氷期には、氷河がかなり前進しました。氷河は山の上の方で積もった雪が、その重みでずり落ちるように前進してきたものです。普通は麓まで来ると解けますが、寒いと解けずに氷のまま耕作地や住宅地まで広がっていきます。

 この小氷期という時代の様子は、絵画からもうかがい知ることができます。イギリスのテムズ川が凍っていたり、住宅地がたくさんの雪で覆われていたり。日本では歌川広重の「東海道五十三次」の蒲原宿(静岡市)が雪深く描かれています。

小氷期に気温が低かったことは、歌川広重の「東海道五十三次」に描かれた雪深い蒲原宿(静岡市)の風景からもうかがい知ることができる。
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