第2回 山極壽一(霊長類学):サル、ゴリラ研究から現代社会を考える(提言編)
サルは食物の分配は基本的にしません。ニホンザルはエサを前にすると、弱い方が必ず手を引っ込めて、強い方が独占します。
類人猿のチンパンジーやゴリラは分配します。弱い立場のメスや子どもがエサを持っているオスに分配を要求すると、オスは分けざるを得ません。おそらく人類は類人猿の食物分配を元にして食物を食べる方法を変えていったのでしょう。
人類がサバンナへ進出すると、そこには肉食獣がいました。危険が大きいために、赤ちゃんをたくさん作る必要が生じてきて、人類は多産性を獲得しました。
そして、今から200万年ほど前。脳が大きくなってくると、人類は成長に時間がかかり、重たい赤ちゃんを一人では育てられなくなります。それで共同保育が必要になり、家族が生まれました。
ゴリラの赤ちゃんはぜんぜん泣きません。ところが人間の赤ちゃんは泣くので、みんなで泣きやませようとする。それに、赤ちゃんはだれに向かっても微笑んでくれる。生まれつき共同保育されるような特徴をもっています。共同保育は人間の社会性に深く根付いたものです。
人間は家族という単位と、複数の家族が集まった共同体という単位を持っていて、そのなかで育児と食物の分配が接着剤になって人間関係ができていく。ゴリラから見るととても奇妙ですが、これが人間の本質だと思います。
マジックナンバー150の人間社会とは
脳はなぜ大きくなったのかという最大の疑問に仮説を出した人がいます。人間以外の霊長類の脳といろいろなパラメーターを比べてみたら、一番ぴったりくるのは集団サイズだということがわかりました。サルとかチンパンジーとか、それぞれの種に平均的な集団サイズがあるのですが、それが脳の大きさ、とりわけ脳に占める大脳皮質の割合にきれいな相関を示していました。
では、1500ccの脳を持っているわれわれ現代人にはどれぐらいの集団サイズが適しているかというと、150人です。これは農業や牧畜をやっていない、狩猟採集で暮らしている人たちの平均的な村のサイズに相当していて、「マジックナンバー」と言われています。
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