第1回 馬場悠男(人類学):骨から探る人類史~思いやりの心を未来の子孫に向ける(提言編)
5段階の化石を調べると、人間らしさを示す4つの特徴の発達の仕方がわかります。
1 チンパンジーのような暴力性は、人類の誕生とともになくなりました。犬歯が急速に退化したことからうかがえます。
2 脳容積は初めのうちはチンパンジーとほとんど変わりませんが、200万年前ぐらいの原人になると急速に大きくなってきます。私たちの高度な認知能力は人類進化の中で比較的新しいと言えます。
3 二足歩行の発達については、初期猿人から腰を伸ばして立っていますが、土踏まず(アーチ構造)がないので長距離を歩けません。草原に出て行った猿人は土踏まずがあり、長いあいだ硬い地面を歩くことができました。そして原人になると、脚が長くなって体の能力は私たちと変わらなくなりました。
4 大臼歯の大きさからは食事の変容が見て取れます。初期猿人は私たちとあまり変わらない大きさでしたが、猿人が草原に出て硬い乾燥したものを食べるようになると、それらをかみ砕くために大臼歯は大きくなります。その後、原人になって石器や火を使って調理をするようになると、大臼歯は小さくなりました。同じ時期に草原で硬いものを食べ続けた「頑丈型の猿人」もいましたが、やがて絶滅します。
思いやりの心はいつ生まれたか
では、思いやりの心はいつ登場したのでしょう? 脳が大きくなった時に急に湧いてきたのでしょうか。
チンパンジーなどを観察すると、まれに人間的な閃き、意図していないような親切行動が見られます。そうした行動が頻度を増して、思いやりの心に育っていくのではないかと霊長類学者は考えています。
古人類の化石で言うと、440万年前の初期猿人(ラミダス猿人、1992年にエチオピアで発見)の全身の姿が2009年に『サイエンス』誌の論文に掲載されました。メスの個体ですが、腰を伸ばして立ち、森に暮らし、顔はごつくないので果物など柔らかいものを食べていたことがわかります。
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