第1回 馬場悠男(人類学):骨から探る人類史~思いやりの心を未来の子孫に向ける(提言編)
国立科学博物館名誉研究員の馬場悠男氏は、長年にわたり化石骨から古代の人類の歴史をひも解いてきました。そうした経験から私たちの成り立ち、これから進むべき道について語っていただきます。
こんにちは、馬場です。
ぼくは人類の「想像共感能力」、つまり思いやりの心が、地球永住のカギになると考えています。
チンパンジーは他者の心をほとんど読めませんが、われわれ人類は他者の心が読めます。自分の過去から未来に続く人生がわかるし、他人にもそういう人生があることがわかるからやさしくできる。悩みがわかる。仮にいじめることがあったとしても反省できる。
こうした思いやりの心がいつからはじまったのかについて考えてみましょう。
私の地球永住計画
ホモ・サピエンスは、たぐいまれな想像共感・創造改革能力を獲得して世界中に拡散し、5000年前には文明を発達させた。さらに、最近では、産業革命によって実現した快適生活への欲望追求というウイルスを、グローバリゼイションによって全世界にばらまき、マスコミによって万人に可視化してしまった。
70億を超える人々の欲望を制御し、現代文明を崩壊させることなく安定的に縮小することができるかどうかは、創造改革能力を大いに発揮し、想像共感能力すなわち思いやりの心を現在の同朋だけでなく未来の同朋にまで拡げられるかにかかっている。つまり、自らを律し、祖先たちの自然と共存する慎ましやかな生活に戻ることだろう。具体的には、日本なら昭和初期、江戸時代、縄文時代などのモデルが考えられる。さらに、脳も身体も縮小しながら、原人としての石器文化を維持して100万年間も生き延びたホモ・フロレシエンシスという究極モデルもありうる。
馬場悠男
人類の進化5段階と人間らしさの発達
人類の歴史は700万年ぐらいと言われています。初期猿人、猿人、原人、旧人、新人という5つの段階で考えるとわかりやすいです。
初期猿人はアフリカで生まれた最初の人類。森に暮らしていました。その後、400万年くらい前から森と草原を行き来して暮らすようになったのが猿人。200万年ぐらい前になると原人と呼ばれる人々が登場し、石器を使うようになり、アフリカを出てアジアにやって来て北京原人とかジャワ原人になりました。
旧人は70万年ほど前にアフリカで誕生し、50万年ほど前からユーラシアに広がりました。とくにヨーロッパの方に行った旧人は、複雑な石器を使うネアンデルタール人になったのです。20万年ぐらい前に新人(ホモ・サピエンス)がアフリカで誕生して、数万年前から世界中に広がり、4万年前ぐらい以降は私たち新人しかいなくなってしまいました。でもDNAを調べると、私たちの中にも1~4%のネアンデルタール人のDNAが入っています。
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