関野吉晴:はじめに

 火星移住計画はもはやSFの世界ではなくなりつつあるようです。イギリスの宇宙理論物理学者のホーキング博士も「ほかの惑星への移住を考えなければいけない」とテレビ番組で語っていました。その理由は「彗星や小惑星の衝突」「新種のウイルス」「核戦争」「人工知能の狂暴化」「気候変動」などです。人類は好奇心と知性を駆使して他の星を目指さなければならないというのです。

 しかし火星移住のための調査研究は、図らずも、この地球が命を育むのに如何に奇跡的な星かということを再認識させてくれました。太陽との距離、大きさ(重力と関係)、組成、地軸の傾き、液体の水、酸素、月の存在、太陽風や宇宙線(放射線)を跳ね返す磁気圏のバリア。こうした生き物の存在を可能にする条件がそろっている地球を離れ、火星に移住するにはテラフォーミング(地球化)が必要です。しかし、火星には液体の水がなく、大気は少なくて酸素がないなど地球化が困難なことから、太陽系外に目を向けて地球に似た惑星を探し始めました。

パタゴニアのチャルテン山(フィッツロイ峰)。レンズ雲に朝日が当たり、濃いピンク色に染まった。(写真提供:関野吉晴)
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「地球永住計画」というのは「火星移住計画」に対する発想です。火星やより遠い星に地球の生態系を作って(テラフォーミング)、移住することは少なくとも近い将来にはとても難しいと私には感じられます。それよりも、まずはこの地球をもっとしっかり見つめよう。千年先とか1万年先のことはどうなるかわかりません。でも、等身大でわかる範囲、せめて孫やひ孫の世代にどういう地球を残していくかは考えたい。

 この「地球永住計画」のサブタイトルは、「この星に生き続けるための物語」です。5年前(2013年)に国立科学博物館で開催し、私が馬場悠男先生(国立科学博物館名誉研究員、元日本人類学会会長)、篠田謙一先生(国立科学博物館副館長兼人類研究部長)と共に監修した特別展「グレートジャーニー 人類の旅」のサブタイトルが「この星に、生き残るための物語。」でしたが、今回は「生き続けるための物語」です。

 私たちが生きているということは、「物語を紡いでいく」ことだと思います。地球永住計画は地球に生きる私たちの物語を紡ぐプロジェクトであり、皆さん一人ひとりの物語を紡ぐためのヒントとなる素材を提示し、一緒に考えたいと思っています。

 私は、47年間、地球の主だった辺境を這うように旅してきました。自分の足で歩いて、見て、聞いて、自分の頭で考えて、自分の言葉で表現してきました。それと同じようにこの地球永住計画でも、足元にある自然や身近な人との出会いを大切にしています。

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