第6回 海部陽介(人類学):人類はどのように日本列島にやって来たのか?(対談編)
関野 その時ぼくは困ったんです。ぼくもはじめは好奇心や向上心の強い人たちが「あの山を越えたら何があるんだろう? もっといい生活ができるかもしれない」と思って進んだのだと思っていました。でも、そうだとしたら、アフリカを出て一番遠くに行った人たちが一番向上心の強い、進取の気性に富んだ人たちのはずですが、南米最南端のナパリーノ島に行ってみたらそこに暮らす人たちからそんな雰囲気は感じませんでした。
むしろ、競争に敗れた人たちがもと居た場所を離れて移民になる。だから人類拡散の旅「グレートジャーニー」は本当は「グレートイミグレーション」だったんだとこのごろは言っているんです。
海部 みんなの夢を壊しそうですね(笑)。
関野 でも、押し出された人たちも強くなります。日本とイギリスは、そんな例かもしれません。
海部 ぼくはこれまでは遺跡を掘って、そこから見えてくることで言えることしかやってきませんでした。でも、それだけでは人間が見えてこないので、一歩踏み出して実験をやってみようと思いました。そうすると、これまで考えなかったことを考えなきゃいけなくなります。探検をやっている方々の知識も必要になってきます。ですから、今関野さんが言われたことは新しいこともたくさんあるし、そういうのを聞きながら、修正しながらやっています。それが面白いところですね。
実は、ぼくはなぜ移住したかという理由は、まだあまり真剣に考えていないんです。ポジティブかネガティブかも考えていません。その前に、たどりつくためには何が必要かということを知りたいと思っています。
旧石器時代、日本列島に人類が入ったばかりの3万8000年前の地層から、伊豆諸島の神津島で採られた黒曜石が見つかっています。これはとても不思議で、おそらく神津島まで資源を探しに行っているんじゃないかと考えられます。それだけの技術をもっている人たちだったということです。そう考えないと説明できません。これは世界最古の往復航海の証拠であり、とっても重要なんです。
移住を決めたきっかけは、ネガティブなこともポジティブなこともあったと思います。ひとつわかっておきたいのは、この時には世界中にフロンティアがあって、オーストラリアにもフィリピンにも日本列島にもシベリアにもどんどん進出していたということです。それらがすべて同じ理由で起こったとは思えません。
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