第5回 小泉武夫(醸造学・発酵学・食文化論):発酵は世界を救う(対談編)

小泉 そうですね。生肉はビタミンのためというより、好きだから食べているのです。

関野 モンゴルではビタミンを馬乳酒から摂取していると思います。

小泉 そうです。馬乳酒には乳糖を発酵する菌がいて、ビタミン要求性が強く、自分でビタミンを作ります。容器の内側に菌が固定化されていて、馬乳を入れるとビタミン豊富なお酒を作ってくれます。一種のバイオリアクター(微生物反応器)ですね。とても効率のいい使い方です。

 それから、発酵食品が放射線障害を減少させるということが言われています。広島大学の実験では、マウスに味噌を与えた後に放射線を照射すると、放射線障害を減少させるという結果が出ています。

語り合う小泉武夫氏(左)と関野吉晴氏。(撮影:青木計意子)
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 また、スタンフォード大学の微生物学・免疫学研究者のソネンバーグ夫妻が『腸科学』(早川書房)という本を書いて、味噌、納豆、キムチなどが免疫力をアップさせると言っています。

 免疫の75%は腸で作られます。私は73歳で野球の硬式ボールをセカンドに投げられるぐらい元気ですし、5つの大学で教えています。毎日納豆を食べて、粘り強い人生です。

生ごみを燃やすなんてとんでもない

関野 環境問題では、生ごみを生かすことに関心があります。

小泉 これからの循環型社会において一番重要なことだと思いますね。生ごみを燃やすのは私からすればとんでもないことです。生ごみの焼却に今ものすごい税金を使っていますけど、発酵すれば簡単なんですよ。私たちはすでにやっています。

 福島県の須賀川にある親戚の山に堆肥センターを作りました。社名は「三風」といって、健康な土づくりは風味、風土、風景につながるという意味を込めています。

 生ごみに90℃の熱を加えて200メートル移動させると、25日後に肥沃な土になります。微生物はタダで働くから電気代だけです。生ごみ1トンあたり3000円で引き受けます。でも焼却場は1トンあたり1万9000円かかります。

 日光市では富士食品工業というカット野菜の会社が須賀川と同じシステムを導入しています。発酵させてできた肥沃な土で有機野菜を作るので、非常に効率がいいんです。

 今度石垣島にも工場を作りますが、そこでは石垣牛の糞尿を使います。生ごみと糞尿を一緒に発酵させたら理想的な堆肥ができますよ。石垣島を環境の島にしよう、生ごみを土に返そうということを発酵文化推進機構でやっております。

 生ごみを堆肥化する装置を1レーン作るのに1億円しかかかりません。今ある焼却場の煙突を利用して、装置をタテに作ることもできます。計算してみたら、東京都に堆肥化レーンを270本作ると東京の生ごみはみんな土になる。270億円、あるいはタテにすれば倍かかるとしても、1000億円以内でできます。

 生ごみからできた土を山に戻せば山が豊かになるし、その下の田畑も豊かになる。川も流れ込む先の海も豊かになります。こういう循環型の社会を発酵で作っていくことがすごく大切ですが、そこに立ちはだかっているのが行政です。産業廃棄物の業者と親しくしていたりすると手こずります。

 近年川がきれいになったのも微生物のおかげですよ。海が近いモノレールの昭和島駅の地下にある排水処理場では、100%微生物が発酵で処理しています。

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