第5回 小泉武夫(醸造学・発酵学・食文化論):発酵は世界を救う(対談編)
小泉 微生物には知恵がありません。でも遺伝的に情報をもっていて、自分に適した環境を作ります。数年前に福島の家の土蔵を壊したら、保存してあった古文書のふ糊から江戸時代の生きた菌が出てきたんですよ。りんごの芯の中にある空間にもおもしろい生物がいます。
関野 微生物には知恵がないと言っても、アメーバのゲノムは複雑ですよね。
小泉 変形菌はすごいです。進化しているんでしょうね。それが知恵と言えるかはわかりませんが。
関野 今いる細菌も進化の頂点ですよね。36億年前と今の細菌はかなり違いますか。
小泉 進化するものとしないものがいます。硫黄細菌のように数億年変わらない鈍感なやつもいます。
関野 単細胞では進化にも限界があるということですか。
小泉 あります。微生物はあまり移動できなくて、風や虫によって運ばれる。原始的です。
関野 「単細胞」というと間抜けな感じだけど・・・
小泉 微生物は間抜けじゃないですよ。でも単細胞。遺伝的に組み込まれているからそれに従っているだけで、自ら考えているわけではありません。
関野 ミジンコは微生物ですか。
小泉 微細な生物なので微生物と言うこともありますが、分類学上は甲殻類です。
関野 ミジンコにはオス・メスがありますけど、微生物にはありますか。
小泉 微生物の性別はよくわかりません。親子はわかる場合があります。母細胞から発芽して子を産みますから。
医療や健康に微生物を生かす
関野 「FT革命」の4本の柱についてお聞きします。まず、医学の面ではけっこうな可能性があるのですか。
小泉 可能性はすごいですし、実用化もされています。たとえば、納豆菌からナットウキナーゼを取り出して血栓症患者に投与しています。抗生物質や制がん剤など、医薬品は本当に発酵を利用したものが多いです。ビタミンもホルモンも発酵です。点滴用のアミノ酸は全部発酵で作ります。
関野 エスキモーは生肉からビタミンを摂っていると言われますが、発酵させた肉からも摂っています。「エスキモー」は北極圏のツンドラ地帯に住む先住民族のグループで、ロシアのチュコト半島とアラスカに住むユーピック、アラスカのイヌーピアック、カナダのイヌイット、グリーンランドのカラーリットがいます。よくエスキモーは差別語だからイヌイットと言わなければいけないと言いますが、ロシア、アラスカにはイヌイットはいません。セイウチの肉を発酵させたコパルヒンを作るのはロシアのユーピックです。また夏のツンドラはベリー類、キノコ、野草が豊富で、これらからビタミンが十分摂れます。
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