第5回 小泉武夫(醸造学・発酵学・食文化論):発酵は世界を救う(提言編)

 濃硫酸の中で死なない菌がアメリカで発見されました。どうしてたんぱく質が変性しないんだろう?

 それから人間はだいたい10グレイの放射線でだめになりますが、アメリカで1万2000グレイの放射線をかけても死なない微生物がみつかりました。

「いったい何なんだ、おまえら?」ということになります。これら「アーキア」と呼ばれる微生物は極限環境に生息するので、「アーキア、おまえはいったい何者ぞ」とぼくは言っているんです。

 地球の微生物の30数パーセントはアーキアではないかと言われています。まだ発見されていなくても、温暖化とか寒冷化のように地球が変化してくると、今までじーっとしていた微生物が出てきます。アーキアの研究者たちが調べると、地球が誕生した後の厳しい環境を潜り抜けてきた性質が残っているとも言われる、それぐらいすごいんですね。

(撮影:青木計意子)
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 微生物は36億年前に生まれたと言われています。なぜかというと、36億年前の岩石がカナダとアフリカから出てきて、割ってみたら微生物の化石が出てきたからです。

 微生物というのははるか昔から存在する不思議な生き物だということをまずお話ししました。これから微生物をどんなものに利用できるか、私が提案している「FT革命」の話をします。

FT(発酵技術)革命が地球永住のカギ

 2002年に『FT革命~発酵技術が人類を救う』(東洋経済新報社)という本を書きました。「FT革命」の「F」は発酵(Fermentation)、「T」は技術(Technology)。つまり微生物の力を借りた発酵技術で、人類が抱える重大問題を解決しようという発想です。

FT革命には次の4つの柱があります。

1 健康問題
 微生物は身内を守るために他の微生物を殺します。私たちの研究室で、がん細胞をやっつける微生物を見つけています。20種類くらいのそういう菌を培養して、ネズミのがん細胞を収縮させる研究をしています。

2 環境問題
 生ごみを燃やすと、エネルギーを使ってCO₂を出します。不完全燃焼だとダイオキシンが出ます。焼却灰の処理にはものすごくお金がかかります。でも、微生物に発酵させて分解すれば、環境にやさしいのはもちろん、処理費用も少なくて済みます。

3 食糧問題
 微生物は食べられます。インスタントラーメンのサイコロ肉は微生物で作った肉です。キノコも微生物で、食べられる菌という意味で「食菌類」と言います。樹木や落ち葉を微生物で分解してブドウ糖にすることも研究されています。

4 エネルギー問題
 微生物による発酵で燃料が作れます。水素生産菌は水をH₂とOに分解し、その時に巨大なエネルギーが出ます。発酵による新しいエネルギーが期待されています。

 このように、人間にやさしい微生物ですばらしい循環型の社会を作ろうというのが、私の考えているFT革命です。

地球永住計画公式サイト
https://sites.google.com/site/chikyueiju/

小泉武夫(こいずみ たけお)

1943年福島県の酒造家に生まれる。農学博士。東京農業大学名誉教授ほか、全国の大学で客員教授をつとめる。専攻は醸造学・発酵学・食文化論。国や各地の自治体など行政機関での食に関するアドバイザーを多数兼任、また執筆、テレビ出演など多方面で活躍中。ギャラクシー賞ほか受賞多数。食に関する著作は単著142冊、共著25冊を数える(平成29年4月時点)。また『食あれば楽あり』を日本経済新聞に25年間連続連載中。NPO発酵文化推進機構理事長。