強欲企業が生んだタイタニックの悲劇、事故対策は欠如

安全よりも快適さを優先

 そもそも、なぜ救命ボートはこんなにも少なかったのだろう。当時、船は年々大型化していたが、救命ボートの要件はそのままだった。タイタニック号は救命ボートを合計48艘積むように設計されたが、ホワイト・スター・ライン社は、乗客の快適性を優先させた。救命ボートを増やせば甲板が雑然とすると考えたのだ。ハーランド・アンド・ウルフ社は救命ボートの増設をホワイト・スター・ライン社に訴えたが、最終的には引き下がった。

ホワイト・スター・ライン社の社長ジョセフ・ブルース・イズメイ。
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 それだけではない。救命ボートに関する訴えを退けたホワイト・スター・ライン社の社長ジョセフ・ブルース・イズメイは、氷山が出現すると報告されていた航路を全速力で航行し続けるようスミス船長に強く要求したとの通説もある。周知のとおり、イズメイは本人いわく自分でも気づかぬうちに、数少ない男性の一人として「たまたま」救命ボートに乗っており、この大惨事を生き延びたうえ、ホワイト・スター・ライン社の親会社の重役として残った。

 彼はその後25年間生きたが、本当は船もろとも沈んでいればよかったと思っていたかもしれない。あらゆる人々から事故の責任を問われた。テキサス州のイズメイという町は、改名さえした。彼をこのように批判する者もいた。「あいつは、けだものの欲望に一切のまともな感情を飲み込まれた薄汚いブタだ。……自分のことだけ考えているうちに、人間らしい心が退化したのだ」

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