強欲企業が生んだタイタニックの悲劇、事故対策は欠如

救助を待つ折り畳み式の救命ボート。
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 タイタニック号は全長268メートル、全幅28メートル。29基のボイラーを159個の石炭炉で駆動し、最高速度23~24ノットで大西洋を素早く横断できるとの触れ込みだった。業界誌『シップビルダー』はタイタニック号を、その水密区画の設計と機能(実際は悲惨なまでの傷物と判明する)から、「まず間違いなく沈まない」船と評した。しかし、立派な煙突4本のうち実際に煙突として使うのは3本だけで、1本は主に外観を整えるためのものだった。

 タイタニック号の惨事の原因はよく知られている。船の横腹が氷山に衝突し、水密区画にものすごい勢いで浸水していった。水であふれる区画が4つまでだったなら、タイタニック号は持ちこたえられたかもしれない。しかし、船体にあいた穴は非常に大きく、6つもの区画に水があふれて、船は沈没を運命づけられた。

 約3500人の定員に対して、船には2200人あまりしか乗っていなかったが、それでも予想を超える人数だった。不運なことに、この悲劇が始まってから2時間もの間、乗客は事態をはっきりと認識できずにいた。1等の乗客は、冷えきった大西洋上の夜に客室を出て木製の救命ボートに向かうことに、まったく気乗りがしなかった。3等の大半の乗客には、そもそもその機会さえ与えられなかった。

 タイタニック号は合計20艘の救命ボートを船に積んでいた。定員65人の標準的な木製ボートが14艘、それよりも小さな定員40人のカッター型木製ボートが2艘、船底が木、側面がキャンバス地でできた定員47人の折り畳み式ボートが4艘である。20艘すべての定員を足すと1178人。つまり、すべての救命ボートに定員いっぱいまで乗せたとしても、約2200人の乗員のうち1000人ほどが乗れなかったことになる。

 そして実際は、それよりもはるかに多くの人々が、沈んでいく船に取り残された。冷たい海に下ろされた救命ボートのうち、乗客を定員いっぱいまで乗せたものはほとんどなく、このことが死者数を劇的に引き上げた。乗組員は救命ボートの取扱訓練を一度も受けておらず、定員に達した救命ボートでも安全に海上に下ろせることを知らされていなかったのだ。

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