第4回 博学多才な鳥類学者はなぜ、どのように誕生したのか

「調査1年目の時に、母島の石灰岩の鍾乳洞で、鳥の骨を掘り始めました。そこから出るのは、古いやつだと7000~8000年前なんですけども、新しいやつだと数百年前ぐらいのものまであります。まだ、人が定住する前にどんな鳥がいたか分かるんです」

 これは興味津々だ。人がやってくる少し前の状況が分かれば、古い環境のリファレンスとしてとても役に立つだろう。ただし、これは川上さん自身、その後の研究の展開の中で非常に多忙になり、いまだ論文として公表できていないので、詳しいことはもうちょっと待たなければならない。

 一方、川上さんが多くの時間を使い、また、情熱を傾け、研究の性質上、早めに論文にして報告しなければならないテーマというのは、たとえば、小笠原の無人島群の生態系だ。フィールドとしては過酷だが、川上さんは喜々として赴く。

研究室の天井からぶら下がっていた無人島調査のための機材。他にヘルメットやクライミング用の道具などもあった。
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「無人島ってロマンを感じませんか。もう、これ楽しくてたまらないです。最初は人が住んでいる母島で研究をはじめましたけど、そのうち興味本位で無人島にも自分で行くようになって、何十個もの島を訪ねていたら仕事にもなって、小笠原の中でのミクロなスケールからちょっとマクロなスケールまでとらえることができるようになってくるとどんどん面白くなってきたんです。僕は、鳥が好きというよりは、鳥の研究が好きです。なぜなら、鳥ってすごく特徴的な『飛べる』っていう性質を持っていて、それゆえに島間だって本当は飛べる。でも、飛ばなくなる。さらに、飛んで来たけれども定着できないとか、いろんなことが起こってるんです。その辺は多分、多くの人が興味を持っていただけることじゃないかと思うんです」

 メグロは飛べるくせに島間移動をほとんどしないという話を聞いたけれど、それとは逆バージョンのこともある。たとえば、ウグイス。

「例えば父島の近くにある西島で、外来種のクマネズミの駆除が行われたんです。その島にはもともとウグイスが全然いなくて、なぜいないのか謎だったんですけど、ネズミを駆除した2年後に島がウグイスであふれてしまって。それまではいくら探してもいなかったんですけども、それ以来、ずっとそこでウグイスは繁殖を続けていて、あ、ネズミが食ってたんだっていうのがそれでわかったんです。実はたぶん定期的に移動してきていたんですよ。でも定着できない状態がずっと続いていたのがネズミを取り除くことで回復できた。これが、例えば飛べない動物であれば、そこに渡ってくるのに2年ではなくて100年かかったかもしれないし、200年かかったかもしれないんですが、鳥の応答はとても速いというのも魅力です」