第4回 博学多才な鳥類学者はなぜ、どのように誕生したのか

川上さんの最初の研究テーマはメグロだった。
[画像のクリックで拡大表示]

「学部生時代は林学の学科だったんですが、生物サークルで鳥を見てきたことから、鳥についての卒論を書きたいと思って樋口広芳先生という鳥類の先生に相談しに行きました。すると『川上くん、小笠原でメグロの調査をしないか』って言うんです。メグロというのは、特別天然記念物にもなっている鳥で、小笠原で一番保全上の価値が高いとされていました。樋口先生自身が10年前に調査して、その後にどうなっているか調べる必要があったんです。僕は小笠原ってどこにあるのかも知らなかったんですけど、予算もあるっていうし、すぐに『行きます』と言って行きました。6カ月間、かすみ網でメグロを捕獲して足輪をつけて、放して観察して、卒論はかなり基礎的なデータを取るだけで終わってしまったんですが、修士でも研究を続けて、博士課程に入ったところで森林総研に入って今に至ります」

[画像のクリックで拡大表示]

 この時、川上さんが体験したのは、これまでやってきたバードウォッチングとは全く違う鳥の観察の仕方だった。

「メグロだけをひたすら何百時間、見続けるわけじゃないですか。単に見てるだけじゃなくて、いろんなことが気になってくるわけです。例えば、小笠原にはいろんな島がありますけど、そのうちにメグロが今いるのは3つだけなんです。飛べる鳥なのに、2キロとか3キロの海も越えずに、生まれた島にずっといる。じゃあ、なぜ遠くまで飛ばないようになったんだろうかって、進化について考えるようになって、あとは生態系の中で鳥って何の役に立ってるのかっていうのを考えるのも楽しくなってきました。鳥を守れとかよく言いますけど、実際に守りたいのは、実はひとつの種ではなくて、例えば生態系の中の多様性であったり、生態系の構造であったりとかするわけです。じゃあ、その種が絶滅したら一体何が起こるのかが、すごく重要になってくるんです。とすると、鳥って何の機能があるのか。鳥が絶滅したときに、一体何が起こるのか考えるが楽しくなっていきました」

 川上さんが、進化への関心と生態系への関心を同時にいだき、研究室では骨の標本を作って、細かな骨の違いから進化の妙に思いをはせたり、過酷なフィールドに出かけては、生態系の中での鳥の機能を考えたりするのには、こんな経緯と背景があった。

 なお、小笠原の元々の生態系を知るという意味では、非常に意義深い発見を学部生時代にすでに成し遂げているとのことで、それについても軽く触れておこう。