第2回 鳥がいるといないとで、自然はどう変わるのか

「山岳班がちゃんといまして、ルート工作をします。研究者はそれに従って登るんですけど、クライミングの訓練はやっぱり全員必要です」

 なるほど、川上さんの研究室にあるハーネスやエイト環などのクライミング用品は、まさにそのためのものだったのだ。まずは体力勝負の現場の様子が透けて見える。

南硫黄島を登攀中。(写真提供:川上和人)
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 ここで、川上さんたちは、生態系の中での海鳥の機能を知るべく、数々の動植物をサンプリングしてきた。植物と聞いて驚いた人は、これが「生態系の話」だということを忘れている。鳥の話をしつつ、常に全体を俯瞰するのが生態学の醍醐味だ。

「例えば植物を調べると、南硫黄島では海由来の栄養分がたくさん含まれているんじゃないかと思うんです。我々がふだん見ているような父島とか母島ですと、海由来の物質循環が断ち切られて、陸上での光合成由来のものだけで回っていて、要するに陸地の中で完結していると思います。それが南硫黄島では植物だけではなくて、昆虫はどうだ、トカゲはどうだっていうのを全部分析してあげようと思っていて、今、サンプルを整理しているところです」

 ちなみに、海由来の物質か陸由来の物質かを確定するためには、同位体分析を使う。同じ窒素や炭素、硫黄などでも、由来が違えば含まれている同位体の割合が違うので、それを手がかりにする。

 おそらくこれから1年、2年の間に公表されるであろう成果が楽しみだ。

つづく

川上和人(かわかみ かずと)

1973年、大阪府生まれ。鳥類学者。農学博士。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 鳥獣生態研究室 主任研究員。1996年、東京大学農学部林学科卒業。1999年に同大学農学生命科学研究科を中退し、森林総合研究所に入所。2007年から現職。『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社)、『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』『そもそも島に進化あり』(技術評論社)『外来鳥ハンドブック』(文一総合出版)『美しい鳥 ヘンテコな鳥』(笠倉出版社)などの著書のほか、図鑑も多数監修している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からは、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)をはじめ、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「「秘密基地からハッシン!」」を配信中。