第1回 鳥類学者が選んだ「すごい鳥」たち

「我々、ニワトリの胸肉を食べますよね。ニワトリは飛ばないってみんな思ってるけども、もし本当に飛ばない鳥だったらあんな筋肉はついてないんです。ダチョウみたいに胸肉がほとんどなくなるのが普通です。つまり、ニワトリは飛ぶ鳥の形態を持っているんです。ただし、ちょっと異常です。鳥の筋肉って、普通は赤いんですよ。長距離を飛ぶために酸素をたくさん使うのでミオグロビンが大量に含まれていて。でも、ニワトリをはじめとするキジ目の鳥の筋肉って、ピンクです。人間でも赤い筋肉は長距離走者に多くて、白っぽい筋肉は短距離走者に多いわけですけど、ニワトリを含むキジ目の鳥もまさに短距離型、瞬発型で、一気に筋力を使ってボンって飛んで、100メートルとか先で降りてくるわけです」

 それを可能にする骨の構造もやはり、とても特徴的なものだ。川上さんは、なんだか嬉しそうにニワトリの胸骨を差し出して「無茶苦茶なんです」と表現した。

トビの胸骨(左)とニワトリの胸骨(右)。ニワトリの胸骨は板のようではなく枝状になっている。(写真提供:川上和人)
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「胸肉を骨ごと揚げてあるフライドチキンなどで、見たことある人も多いと思うんですけど、胸骨の形がもう無茶苦茶なんです。普通、鳥の胸骨って、平面になっている部分の上に筋肉がのるんですよ。そうやって筋肉を支えてます。でも、ニワトリの場合、それが平面じゃなくて枝状です。恐らく枝の部分がバネの役割をして、瞬発力を出すことができるんですよ。ギュッとためてボンって飛べる。でも、長距離を飛ぶためには、支えがしっかりしていたほうがいいんです。硬くないとやっぱり駄目なんです。自転車のサスペンションが柔らか過ぎると、ジャンプはできるけれども、フニャフニャして漕ぎにくいっていうのと同じです」

 同じ「飛ぶ」にしても、進化の中でニワトリが選んだのは、短距離走者的なスプリント能力だったというわけだ。それが胸骨の形にも現れている。「飛ぶ」というキーワードについて、一筋縄ではいかないものを感じる。

 さらに、川上さんは、空を「飛ぶ」だけではすまないとんでもない能力を持ったスーパーバードの存在を指摘した。

「僕が直接見て、『すごいな』って思う鳥はやっぱりいて、それは例えばミズナギドリです。1日に数百キロ移動することもできるし、地上では1メートル、自分の身長の5倍もの穴を掘ってそこで巣をつくったりするわけです。しかも、海の中では、泳ぎのエキスパートである魚を追いかけて食べてるんですよ。それが1個体でできちゃう。骨を見ていてすごいと思うのは、潜水性に応じて、上腕骨(肩から肘)の骨の断面が扁平になっているんですよね。単に構造的な強さを考えると、断面は円がよいはずなんですが、より流線型に近くするためと考えられます」

手にしているのは、川上さんらが2018年1月に発表した論文で小笠原の固有種であることを証明した小型のミズナギドリ(Puffinus bannermani)。それまでは別の鳥の亜種とされていたこともあり、正式な和名はまだ決まっていない。
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