たった1羽の亜種

3月中旬、奄美大島の森で2羽の雄がにらみ合って鳴いていた。本格的な繁殖期を前にして、縄張りをめぐって駆け引きをしているのだろうか。基亜種アカヒゲと亜種ホントウアカヒゲはどちらも絶滅が危惧される。(写真:YOSHITERU EGUCHI)
[画像のクリックで拡大表示]

アカヒゲのさえずり(繁殖期の雄が発する鳴き声)を聞いてみよう。(音声提供:松田道生)

 アカヒゲは三つの亜種に分類される。男女群島から奄美群島にかけて生息し、最初に学名がつけられた基亜種のアカヒゲ、沖縄本島に分布するホントウアカヒゲ、そして、与那国島で見つかったウスアカヒゲだ。

 環境省は今年5月、野生生物の保全状況をまとめたレッドリストの最新版を公表し、亜種のウスアカヒゲは絶滅したと結論づけた。その理由は、「1921年10月に雄1個体が採集されて以来、50年以上確認例がない」ためだ。

 97年前に与那国島で捕まった鳥は基亜種に比べて背面の色が淡く、額の黒色部が広いなどの特徴があり、1923年になって鳥類学者で後に日本鳥学会の会頭を務めた黒田長禮(ながみち)が新しい亜種として発表した。しかし、ウスアカヒゲとされる鳥が記録されたのは、後にも先にも、この1回だけで、標本も1点しかない。

 そもそも、この亜種は存在したのか?採集された雄を基亜種の越冬個体だと考える研究者もいる。絶滅が宣言された今となっては、ウスアカヒゲがいたことを確かめるために、現存する標本からDNAを抽出して分析する必要もないかもしれないが、何となくすっきりしない気もする。

アカヒゲ
Luscinia komadori

全長:14センチ
生息環境:森林
食性:クモ、昆虫、ミミズなど
豆知識:学名の種小名はkomadori。命名の際にコマドリと取り違えられたためとされ、コマドリの種小名はakahige。