「スーパーマンになる体験をすると人を助けるような行いをするようになるよとか、テレプレゼンスの例みたいに、コミュニケーションの中で自分が変身するとか分身するとかして、それによってもっと創造的になったりお互いを理解することができるようになること。そういうのを『ゴースト』という言い方をする文脈があるのをご存知ですか」

 ゴースト。幽霊。

 話してきた文脈の中で思い出すのはアニメやコミックの『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』だ。この場合、シェルは身体で、ゴーストは魂や心、みたいなもの。そのあたりの関係は作品の中でも主題にかかわるので、ぶ厚く扱われている。

「体と魂や心を対比するんじゃなくて、体が変わると心が変わるって考え方ですね。心って実体がなくて、体にゴーストのようにくっついてる。心っていうのはゴーストだよっていうのが、ずっと哲学的に議論されてきた話で。そのゴーストを科学するのが、たぶん人種差別の話とか、スーパーマンの話とかです。そして、VRは自分のあり方は何なのかを根底から覆しちゃう話です。それをどうやったらエンジニアリングで活用していけるかを考え続けていて、最近は僕はちょっとゴーストエンジニアなんだと思っています」

 アニメやコミックの世界ではなく、今、現実世界を生きる工学者が「ゴーストエンジニア」を名乗る時代がやってきた。ぼくたちはVRによって取替え可能な「シェル」を得て、その都度、どんなゴーストを獲得するのだろうか。シェルによって変わる部分と変わらない部分というのはどんなふうになっているのだろうか……。

 そんなことを考えつつも、実際に体験させてもらった「無限階段(Infinite Stairs)」を思い出した。あの月にまで届く階段を上り通して、新時代への扉を開くのは、勇者のシェルにくっついたゴーストとしてのぼくやあなたであるかもしれないのだ。

この「無限階段」のVRがシェルに進化する日はそう遠くないのかもしれない。
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おわり

鳴海拓志(なるみ たくじ)

1983年、福岡県生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科 講師。博士(工学)。2006年、東京大学工学部卒業。2011年、東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了。同年、東京大学大学院情報理工学系研究科の助教に就任し、2016年4月より現職。日本バーチャルリアリティ学会論文賞、経済産業省Innovative Technologies、グッドデザイン賞など、受賞多数。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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