第5回 時を超えるVR博物館と未来予測ライフログ

 この時、鳴海さんはいったん視線を遠くに送ってから、「ちょっと飛躍がありますけど──」と話題を変えた。

「今までちゃんと身体のことを考えないで技術が作られていた面があったということなんですけど、ここで『無限回廊(Unlimited Corridor)』研究の話をしていいですか?」と。

 これはちょっと驚いた。

「無限回廊」は、マスメディアでも取り上げられた有名な研究だ。今、普及しているVRのコンテンツでは、HMDを装着したまま歩き回るのは難しい。だから座ったままプレイするものがほとんどだ。でも、いずれ歩いたり走ったり動き回りたくなるだろう。そこで、実際にはぐるぐる円を描いて歩きながらも、体験としてはまっすぐ歩いてると感じられるような仕組みが考えられているわけだ。

第1回でも紹介したが、この円柱の壁に触れていることが、まっすぐ歩いていると感じさせるカギだったとは。(字幕は英語です)

「専門的には、リダイレクテッド・ウォーキングっていいます。海外では歩く円周の直径をどれだけ小さくできるかという研究があって、最小は44メートルでした。これって、日本では研究すら難しい規模ですけど、その時に、壁に手を触れていたらどうだろうと思ったんです。直径が5~6メートルぐらいの円柱状の壁に手を触れながら、HMDをつけて歩きます。壁に触ったときに真っすぐに感じているかどうかとか、床を足で踏みしめたときの感覚とかが大事で、視覚だけでなくそういう感覚まで加えれば、空間って効果的に変えられるよというのが、そういう研究でわかったことです。壁に手をふれることで、必要な直径が10分の1近くになるわけですから」

 鳴海さんは、ミュージアムのVRやARで、「体を動かすことによって、環境の把握などが容易になる」と言ったが、こちらは逆で体を動かすことによって(その時に別の刺激を補うことで)、実際とは違った環境把握を与えることができるという話だ。

 ちょっと飛躍があるのは間違いないのだが、鳴海さんにとって、これらは不可分の関係にある。いずれも、環境、感覚、行動がからんでおり、いずれ、もっと高い次元で統合した上で、語りうる時が来るかもしれない。