第4回 人のあり方を変えるVRの怖さと大きな可能性

 テーマは、「同調圧力をなくす」だ。

「5人で会議していて、4人がA案って言っている時に、1人だけB案とは言いにくいみたいな状況ってよくあるじゃないですか。冷静に考えたらB案の方がいいのに、覆せなくなってしまうと。じゃあどうすればいいかというと、みんなでオンラインで会議をする時に、アバターが議論しているようにします。それで、少数派の人が分身して、いっぱいいるように見せることで、多数派とつり合ってる状況を作れるわけです」

 いやあ、これは切実にほしい。一度、体験してみたい!

 実際、会議で同調圧力によって押しつぶされるような経験は、個人的にもあって(特にPTAとか!)、そんな時にうまく少数意見を検討する仕組みはないだろうかとよく考えた。それを鳴海さんは、アバターを使って克服できないかというのだ。

ぜひ一度、体験してみたい!
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「実験でやったのは、いわゆる砂漠遭難課題、『飛行機が砂漠で墜落しました。持ち出せたのは、サングラスと帽子と水と鏡と……で、生き残った3人で話し合って持っていくものの優先順位をつけてください』というものです。それで、2人がサングラス、1人が帽子って言ったときに、そのままだとサングラス派が多数決で勝っちゃうわけです。でも、オンラインで話し合っている時に、本当は1人しかいない帽子派の人が2人に分裂して見えて、話す途中で切れ目をコンピュータが検知して、別のアバターに割り振るんです。つまり、1人が人形を使って2人分パクパクしてるみたいな状況です。これだけで同調圧力がやわらいで、少数派の意見で合意する回数が増えたり、多数派がやっぱり勝った場合も全員の納得度が上がるんですよね。何か冷静に議論することをサポートするとか、立場が対等じゃない人同士の話をサポートするとか、そういうこともできるようになってきたっていうのが、おもしろいなと思っています」

 ここまで来ると、ぼくはかなり鳴海さんに説得されてしまったようだ。

 ぼくたちが、人間というのをどのように理解して、21世紀の今持っている技術をどう使って、うまくいきにくい部分を補うか、という話になってくるのはストンと納得感があるのである。それどころか、充分すぎるくらい魅力的で、ぼくたちは自分たちの特性を理解した上で、新しい道具をどう使うか考えていくべきだという考えに強く合意する。

つづく

鳴海拓志(なるみ たくじ)

1983年、福岡県生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科 講師。博士(工学)。2006年、東京大学工学部卒業。2011年、東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了。同年、東京大学大学院情報理工学系研究科の助教に就任し、2016年4月より現職。日本バーチャルリアリティ学会論文賞、経済産業省Innovative Technologies、グッドデザイン賞など、受賞多数。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。