もちろん、これがあくまでひとつの立場であることも申し添えなければならない。野生復帰の最初の段階では、かつてゴールデンライオンタマリンがそうだったように、慣れない環境の中で生命を落とす個体も出るだろう。動物福祉の観点から、批判もありうる。また、前述の通り生態系への介入を極力避けるタイプの自然保護の考え方からすると、野生復帰は人工的な撹乱につながるものだ。

 遠からず、ぼくたちは立場を選ばなければならない。

「始めた以上、終わりはない」
「始めた以上、終わりはない」
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 ツシマヤマネコの野生復帰を目指すにせよしないにせよ、ひとつ本質的なことがある。

 羽山さんいわく──

「シカの対策でも、クマの対策でもそうなんですけど、行政の方も、一般の人も、何かいい対策をとればいつか終わりがあるんだろうと思っています。シカの管理計画なんて、いつまでやってんだって言われますけど、実は、始めた以上、終わりはないんですよ。野生動物問題って、人か動物か、どっちかがいなくならないと、終わりがないんです。だから、共存するんだって覚悟した以上は、エンドレスなんです」

 ああ、たしかに。

 人がいなくなるのも、動物がいなくなるのも望ましくない。それは自明のことに思える。

 だから、エンドレスを覚悟しなければならない。

 ツシマヤマネコのケースは、そういった意味でもパイロットケースなのだと理解した。「野生復帰」が持つ強い物語性は、種の存続と生態系の復元の営みを軌道に乗せ、地元の「プライド」を刺激して、エンドレスだけれど実り豊かな未来へとつながっているだろうか。

ツシマヤマネコの放飼場の前で。右から井の頭自然文化園の唐沢瑞樹さん、日本獣医生命科学大学の羽山伸一さん、そして筆者。
ツシマヤマネコの放飼場の前で。右から井の頭自然文化園の唐沢瑞樹さん、日本獣医生命科学大学の羽山伸一さん、そして筆者。
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おわり

羽山伸一(はやま しんいち)

1960年、神奈川県生まれ。日本獣医生命科学大学教授。博士(獣医学)。1985年、帯広畜産大学大学院修士課程修了後、埼玉県庁を経て同年、日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)に勤務。2012年より現職。日本の大型野生動物の研究および保護活動に従事する。現在、環境省中央環境審議会専門委員、環境省ゼニガタアザラシ科学委員会委員長、特定非営利活動法人どうぶつたちの病院副理事長、公益財団法人日本動物愛護協会学術顧問などを兼務。『野生動物問題』(地人書館)の著書のほか、『増補版 野生動物管理―理論と技術』(共に文永堂出版)、『野生との共存~行動する動物園と大学』(地人書館)など共編著多数。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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