第6回 ツシマヤマネコとの共存はリアルな「はてしない物語」

「飼育下繁殖しているツシマヤマネコを、将来、野生復帰させていくのかどうか、今のところ明確なゴールは見えていません。人が移動させたり、野生復帰させたりするのも、やはり人工的な手段ですから、そういう撹乱を嫌う立場もあります。これはみんなで話し合っても結論は出ないんです。結局、管理者である環境省が決断するしかないんです。そこのあたりがね、今は非常に曖昧なんで」

 これまでの発言からも分かる通り、羽山さんは、野生復帰を前向きに捉える立場だ。その理由は、もちろん動物園で繁殖した個体群を生息地に戻すアイデアが機能すると評価しているからだが、それだけには収まらない幾重にも折り重なった理由があるようだ。何度も言及した「地元のプライド」にもかかわる問題だ。

井の頭自然文化園「ヤマネコミニ特設展」の解説より。100頭の維持を目指し、ツシマヤマネコは全国9つの動物園で血統を管理しつつ飼育されている。
井の頭自然文化園「ヤマネコミニ特設展」の解説より。100頭の維持を目指し、ツシマヤマネコは全国9つの動物園で血統を管理しつつ飼育されている。
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「トキでもコウノトリでもそうだったけれど、野生復帰が始まらないと、本気にならないですよ。いや、これは上島から下島にメスを連れてくるというのでもいいんです。変な話、名前をつけて自分たちが見守っているっていう状況ができて、はじめてみんなで守っていこうというコンセンサスになっていきます。名前をつけるのは、きっと環境省は嫌がりますけど、やっぱり愛着がないと、人って動かないんじゃないですかね」

 というわけで、羽山さんにとって、野生復帰は種の存続のためであり、生態系の復元のためであり、さらに地元の「プライド」に訴える手段でもあるのだった。

 野生復帰のストーリーは、本当に心に訴えかけてくるものが多い。飼育して野生に戻すことをセットにすることで、ぼくたちの中に眠っている意識を呼び覚ましてくれる。羽山さんはそういった力に期待しているように見える。

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