第5回 ツシマヤマネコの保護はどれだけ進んだのか
2000年に福岡市動物園ではじめての飼育下繁殖が成功して以来、動物園で飼育されているツシマヤマネコは、野生でなにかあったときのための「保険個体群」として、さらにはやがて野生復帰する場合に母体となりうる個体群として期待されている。
2009年から、しばらく繁殖が成功しない時期があったものの、2014年以降は福岡市動物園、九十九島動植物園(長崎県)などで繁殖がみられた。帝王切開による出産が増えているのがちょっと気になるが、動物園での繁殖自体はこれからも期待できる。すでに50頭近くが生まれており、飼育下二世、三世もいることは心強い。
飼育下にある個体群をひとつの群れとみたてて、最適なペアリングを実現するために、動物園間で役割分担をしている姿は、非常にシステマティックだ。井の頭自然文化園では、人工授精による繁殖の技術を確立する努力もされていることも前に触れた。
日本の動物園で繁殖を試みる意義をあらためて問うたところ、羽山さんはこんなふうに言った。
「変な話、日本の動物園がやらなきゃ、他にやる人いないですよね。今まで欧米は何かの種を自分のとこで増やして、アジアとかアフリカに再導入することはありましたけど、日本にはそういう支援って絶対に来ません。逆に言えば日本の絶滅危惧種をなんとかできるのは、日本の動物園だけですよ」
まさにその通りだろう。だから、ツシマヤマネコを引き受けた動物園は、自分の国にいる野生動物に対する責任を引き受けて、ただ飼育し展示することを超えた重みのある仕事をしていると言っていい。
件のワークショップを経た後、飼育をめぐる考え方も変わってきた部分があるという。印象的だったので記しておきたい。