第5回 ツシマヤマネコの保護はどれだけ進んだのか

 ツシマヤマネコをめぐって「プライド」という言葉を使った唐沢瑞樹さんは、動物園でガイドをする時、「対馬がどこにあるかということと、そこにヤマネコがいることを知ってほしい」と強調すると言っていた。また多くの絶滅危惧種を通じて「地元」との交流がある羽山さんも、野生復帰の先例である豊岡市ではコウノトリが「プライド」になったと述べた。

 ツシマヤマネコが、地元の「プライド」につながりうるのは明らかに思える。

井の頭自然文化園ツシマヤマネコ飼育展示係の唐沢瑞樹さん(左)と、日本獣医生命科学大学教授の羽山伸一さん(右)
井の頭自然文化園ツシマヤマネコ飼育展示係の唐沢瑞樹さん(左)と、日本獣医生命科学大学教授の羽山伸一さん(右)
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「感染症対策」について。これは羽山さんが自らの研究室で直接扱った問題だ。

「動物の病院を運営するNPOの副理事長をやってますけど、2004年に対馬に動物病院、対馬動物医療センターをつくりました。2001年から九州地区の獣医師会連合会が毎月ボランティア獣医師を対馬に派遣していたことで、その基盤ができました。そこで、巡回診療ですとか市の事業を受けつついろんな形で調査をしています。ワークショップの時点ではイエネコで流行していたFIV、いわゆる猫エイズに感染したツシマヤマネコが見つかったことが問題になっていました。イエネコから感染しているわけで、イエネコの調査から感染リスクマップを作って高リスク地域を中心に対策を進めて、結果、イエネコのFIV感染を減らしました。今、注目しているのは、むしろ、FeLVという猫の白血病ですね。感染力が非常に強いんですけど、イエネコとヤマネコの接触が減るような適正飼育のおかげで、幸い今のところは大丈夫だろうと思います」

 よく都市部でも、野良猫が集まって繁殖し、手がつけられなくなっている場所がある。不妊手術をする熱心なグループが奔走しても、所によっては対策が追いついておらず、猫が溢れている。対馬にもああいう場所があったら、ヤマネコにとっても感染の温床になってしまう。

 だから島にいるイエネコにマイクロチップを埋めて個体識別できるようにしたり、不用意な繁殖をしないように不妊手術をしたりすることで、野生のツシマヤマネコへの感染も防ぐという方針になった。結果、イエネコのFIV(猫エイズ)の感染率は減った。絶滅危惧種の感染症対策だが、それはすなわちイエネコの感染対策でもあったわけで、島の愛猫家たちには歓迎されたのではないかと想像する。

 では、「飼育下繁殖」はどうか。