「──コウノトリも、2008年に放鳥が始まった佐渡島のトキも順調に増えていますが、もう絶滅のおそれがないかっていうと、全然そんなことはなくて。やっぱり野生に帰してみてわかったのは、そう簡単には繁殖場所を広げていってくれないんですよね。彼らが自然の力で回復していくのを待っていたら、安心できる数になるまで何百年かかるかわからない。その間に何かの一大事が起こったら、また絶滅しちゃうかもしれないですよね。やっぱり一気に数千羽っていうオーダーに回復させるべきだ、というのが僕の考えです」

「──ですので、今はもう、各地に個体群をどんどんつくろうとしています。西日本だけじゃなくて、東日本、千葉県の野田市でも始めたし、韓国でも始まりました。人が自然に働きかけていい自然をつくると、コウノトリたちが評価してくれるんだということにようやく気づいたところです。四国では、野生復帰させたコウノトリを誘致しようと自然を整備したら、コウノトリは選んでくれなかったけれど、ツルが選んでくれたという地域も出てきました」

 野生復帰は、いったん始めたら息の長い取り組みになる。生態系の復元がうまくいっているかどうかは、対象となる動物が選ぶか選ばないかという形で分かる。

 海外の先行事例でも、その都度、当事者が経験してきたことを、今、羽山さんたち、日本の絶滅危惧種にかかわる人々がまさに追体験している。

井の頭自然文化園のツシマヤマネコ。野生復帰を目指して飼育されている。
井の頭自然文化園のツシマヤマネコ。野生復帰を目指して飼育されている。
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つづく

羽山伸一(はやま しんいち)

1960年、神奈川県生まれ。日本獣医生命科学大学教授。博士(獣医学)。1985年、帯広畜産大学大学院修士課程修了後、埼玉県庁を経て同年、日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)に勤務。2012年より現職。日本の大型野生動物の研究および保護活動に従事する。現在、環境省中央環境審議会専門委員、環境省ゼニガタアザラシ科学委員会委員長、特定非営利活動法人どうぶつたちの病院副理事長、公益財団法人日本動物愛護協会学術顧問などを兼務。『野生動物問題』(地人書館)の著書のほか、『増補版 野生動物管理―理論と技術』(共に文永堂出版)、『野生との共存~行動する動物園と大学』(地人書館)など共編著多数。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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