第2回 絶滅危惧種の「野生復帰」とはどんな取り組みなのか

 さて、ツシマヤマネコの野生復帰はまだ行われておらず、将来に向けて検討をしている段階だ。コウノトリについては、2005年から野生復帰(再導入)が始まっているものの、それでも歴史は10年そこそこ。一方、世界的には1970年代から野生復帰の一大プロジェクトがいくつも始まって、今も継続中だ。まずは、それらの先行事例を見ておきたい。

「一番教科書的によく言われてるのが、ゴールデンライオンタマリンっていう南米のサルですよね。あれは、1970年代に飼育下個体群の国際的な血統登録の制度をつくり始めて、国際協力で繁殖をしました。1984年からブラジルのリオデジャネイロ近くの温帯雨林に再導入して、繁殖技術も技術移転してと、50年近くかけたすごく長いプロセスがあるんです」

 ゴールデンライオンタマリンは、体長30センチメートルほどの小型の新世界ザルだ。美しい光沢のある赤茶色の体毛を持つ愛らしいサルで、ペット需要で乱獲されたことと、また、生息地の森林環境が破壊されたことで、絶滅の危機に瀕した。

ゴールデンライオンタマリン。デンマーク、コペンハーゲン動物園で撮影。(写真:川端裕人)
ゴールデンライオンタマリン。デンマーク、コペンハーゲン動物園で撮影。(写真:川端裕人)
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 アメリカ動物園水族館協会の呼びかけで、世界的な飼育下個体群管理計画が始まり、野生復帰の当初は生存率が悪く苦労したものの(最初に放たれた14頭のうち11頭が1年以内に死亡)、結局、野生下で二世、三世が生まれるとそれも改善された。現在の数は千数百頭と概算されるが、正確には数えられない! というところまで来ている。目下、この群れを維持するために大切なのは、住処である森林の保全だ。

「第三世代以降になっちゃうと、捕獲できないんですね。だから、もう正確な数もわからなくなっています。ここで注意してほしいんですけど、野生復帰って、基本的には種の存続がゴールではなくて、生態系の復元がゴールなんです。野生復帰させるから、生息地を保護しようとか、拡大しようとかね。逆にいえば、生息地が守られないのに野生に帰すって、無理な発想です。やはり野生復帰は、生態系を保全していく上で、呼び水的な行為なんだと、僕は思っています。野生に返して、そこに生きているものがいるから何とかしなきゃということになるんで」

 半世紀かけて「成功」の評価を得たゴールデンライオンタマリンの野生復帰は、もちろん、彼らが野生で安定した個体群を維持できているからこそ「成功」なのだが、その背景には「生態系の復元」がある。野生復帰させるから元々の生息環境を復元しようという発想と、生態系を復元したいから象徴的な種を野生復帰させようという発想は、関わる人によってどちらが強いか違うかもしれないが、表裏一体になっており不可分だ。