第5回 私たちは今どのように嘘と付き合えばいいのだろうか

「2、3年前に『嘘つきは倫理的か?』というタイトルの論文が出たんですが、そこでは『正直さ』とともに『仁愛』ということを考えています。ある種の嘘は正直な発言より倫理的だと認知され、正直さと仁愛が対立する時は、仁愛がより重要になるとしています。この論文以外にも、正直さのマイナス面、嘘のプラス面に言及する論考はわりと見ますね」

 嘘か正直か、というのは、たしかに「白か黒か」というくらいはっきりしたもののように思えるが、決してそれだけではないことが、心理学研究でも語られているらしい。

 村井さんが言うように「嘘の分が悪い」社会になりすぎているとして、ならば、我々にできることはあるのだろうか。背景にある「正直イズベスト」の価値観が強すぎるなら、それでは回らない我々の性質を自覚すべきなのだろうか。

「前に嘘日記のことを話しましたけど、学生たちは嘘について自覚的になる傾向にあります。嘘日記をつけると、感想としていろんなことを書いてきてくれます。『自分が色々な所で嘘をついているのがよくわかった』『ふだん何気なく過ごしている毎日の生活を見直すきっかけとなり、自分自身のためにも非常に役に立ちました』『嘘をつくのは両親がとても多かった』『話を盛り下げないために知らないフリをしたり、意外と人に気をつかっているじゃん!!と思いました』『恋愛感情とか男と女的なことが関わるとあたしは本当嘘ばっかで。これはもう全然書ききれない&処分に困るのでリタイアしました』などなど」

 村井さんに見せてもらった学生さんたちの感想はとてもいきいきしており、嘘をつきながら正直に生きる、あるいは、正直に生きながら嘘もつく、つまり、嘘とマコトの白黒はっきりしない場所でダイナミックに「最適」に生きようとする自分を発見した興奮に彩られているように思えた。

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おわり

村井潤一郎(むらい じゅんいちろう)

1971年、東京生まれ。文京学院大学人間学部教授。博士(教育学)。東京大学教育学部 教育心理学科卒業。東京大学大学院教育学研究科 総合教育科学専攻 教育心理学コース博士後期課程修了。2001年に文京女子大学(2002年より文京学院大学に名称変更)の専任講師に就任し、助教授、准教授を経て、2009年より現職。主な編著書に『嘘の心理学』(ナカニシヤ出版)『心理学の視点~躍動する心の学問~』(サイエンス社)、主な訳書に『嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実』(福村出版、共訳)などがある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。