第2回 「嘘は見破れる」はウソだった

 嘘かマコトかという二択の問題で、5割を少し超える正答率ということは、相当悪い成績だ。ランダムに答えても5割は当たると期待できるわけだから。

 繰り返し研究されてきたというこのテーマについて、詳しくお話をうかがいたいのだが、そこに進む前に、前提として知っておくべき非常に興味深い事実がある。

「嘘つきは目をそらすという考えは、世界中で信じられているんですよ。2006年に出た有名な研究があって、嘘に関する共通信念を調査しているんです。『人が嘘をついている時、あなたにはそれがどうやって分かりますか』という質問をして、世界58カ国の2320名から1万件以上の回答を得ています。複数回答可で答えてもらった中で、『視線をそらす』が63.66パーセントで1位。2位の『神経質』の28.15パーセントをかなり上回っています」

 世界各国の研究者から構成される「嘘に関する国際研究チーム」(Global Deception Research Team)の「嘘の世界」(A world of lies)という論文だ。「視線をそらす」「神経質」に続いては、「つじつまがあわない」「体の動き」「表情」「一貫性がない」あたりまでが20パーセントごえで、それ以下には、「あー」「えー」などが話に入る、顔色、話の途切れ、なども挙げられている。

 いずれにしても、調査が行われた58カ国では、多くの人たちが、「嘘をついている人は視線をそらす」と思っている。そして、かくも信頼を寄せられる指標は、ほかにはない。

 きっとそれなりに根拠があるのかもしれない、とこれだけを見ると思う。しかし、心理学者の実験の結果は、衝撃的と言っていいほど、否定的なものだった。

つづく

村井潤一郎(むらい じゅんいちろう)

1971年、東京生まれ。文京学院大学人間学部教授。博士(教育学)。東京大学教育学部 教育心理学科卒業。東京大学大学院教育学研究科 総合教育科学専攻 教育心理学コース博士後期課程修了。2001年に文京女子大学(2002年より文京学院大学に名称変更)の専任講師に就任し、助教授、准教授を経て、2009年より現職。主な編著書に『嘘の心理学』(ナカニシヤ出版)『心理学の視点~躍動する心の学問~』(サイエンス社)、主な訳書に『嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実』(福村出版、共訳)などがある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。