第1回 いったい嘘ってなんだろう―嘘の心理学、事始め

 かなりややこしくなってきた。

 まず嘘には、嘘(虚偽性のみ)、嘘(虚偽性+意図性)がある。

 さらに、欺瞞的コミュニケーションは、こういった「嘘」に加えて、「言っていることは本当なのに、相手を誤った考えに導く」ような、真実を言っているのに嘘になるようなものも含む(虚偽性+意図性+真実性)。ここまでは言語を使ったもの。

 そして欺瞞となると、動物の擬態まで含めた広い概念になる。つまり非言語的な嘘も含まれる(虚偽性+意図性+真実性+非言語性)。

 嘘・欺瞞的コミュニケーション・欺瞞というふうに、だんだん範囲が広がっていくというように考えるとよい。

「欺瞞って言葉自体が難しいですし、実は用語の使用ってまちまちで、結構ラフです。私が好きな定義は、嘘に関するある論文で使われているものなのですが『だます意図と、実際のだます行動の2要素が兼ね備わって初めて嘘だ』というシンプルなものです。これは本当は『欺瞞』の意味なんですけど、これ以降、分かりやすさのために『嘘』という言葉を一貫して使います」

 というわけで、概念にグラデーションがあることを理解した上で、ここはシンプルに「だます意図と、実際のだます行動」をもって「嘘」としていこう。この部分、さらに掘り下げると、哲学的な探求になっていくはずだが、本稿ではこの程度で。

「では、嘘にはどんな種類があるかと言いますと、いろいろな人が分類を試みています。まったくの嘘、誇張表現や過小表現、巧妙な嘘、ですとか。あと隠蔽、何も言わないのと、偽装、あえて違うことを言う場合ですとか。その他、見当外れな説明をしたり、真実を嘘のように言ったりとか、半分隠したりとか。本当にいろいろな分類があります。でも、個人的にこうした分類の話って、あまりワクワクしなくて」

 嘘に限らずなにかをカテゴリーに分けること自体、たぶん意味のあることに違いないのだけれど、村井さんは「ワクワクしない」という。

 その理由とは?

「いくら分類しても、世の中には、分類におさまりきらないようなもっと『すごい』嘘があるわけです。心理学は現実の後をついていっているようなものです。オレオレ詐欺などの特殊詐欺もそうですけど、私自身が、スペインでだまされた経験があって、現実ってすごいなあって。すると、今言ったような分類が、なにかチンケな気がしてしまって」

 村井さん自身が被害にあったスペインでの経験というのは、どんなものか。次回、うかがう。

つづく

村井潤一郎(むらい じゅんいちろう)

1971年、東京生まれ。文京学院大学人間学部教授。博士(教育学)。東京大学教育学部 教育心理学科卒業。東京大学大学院教育学研究科 総合教育科学専攻 教育心理学コース博士後期課程修了。2001年に文京女子大学(2002年より文京学院大学に名称変更)の専任講師に就任し、助教授、准教授を経て、2009年より現職。主な編著書に『嘘の心理学』(ナカニシヤ出版)『心理学の視点~躍動する心の学問~』(サイエンス社)、主な訳書に『嘘と欺瞞の心理学 対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実』(福村出版、共訳)などがある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。