第5回 世界の主流は「薬物の非犯罪化」

 では、今、2010年代の知識、それも、はっきりとした学術的エビデンスに依拠して、薬物乱用に強い社会設計をするならどうするのがよいのだろう。

 近年、日本をのぞく先進諸国では、これまでの薬物使用についての対処のアプローチを変え始めていると伝え聞く。松本さんは、「地域内での治療」を前提としたプログラムを北米での実践を参考にしながら開発して、国内に新風を吹かせた当事者でもあり、国際的な潮流に注目している。

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「今、国際的なモデルにされているのはポルトガルです」とまず具体的な国名をあげた。

 いきなりポンと出てくるには意外な名かもしれないが、薬物乱用への対策で、成功している国として、関係者の間では常識らしい。

「20世紀中、ポルトガルでは若者たちの薬物使用が、結構深刻だったんです。そこで、さまざまな科学的な知見を集めて、2001年に大英断を下しました。すべての薬物について、少量の所持や使用は非犯罪化したんですよ。合法化ではなくて、非犯罪化。つまり、その人を捕まえて刑務所に入れるのではなく、プログラム受けない? とか治療受けない? とか説得をするんです。それから、薬物依存症の人たちを雇用すると助成金が出たり、薬物依存者が手に職をつけて仕事を始める時に少額の融資をしたりとか、社会の中で支える仕組みをつくっていきました。その10年後、犯罪が減ったのは、非犯罪化したので当たり前なんですけど、薬物によって死ぬ人がぐっと減ったし、HIV感染も減ったし、何よりも10代で薬物に手を出す人が減りました。社会も安全になりました。この成功を見て、国際的には、犯罪とか刑罰ではなくて健康問題として見直そうっていう考え方が主流になっています。日本の場合には、なかなかそうはなっていかないのが現状です」

 ひとつには日本の捜査当局がきわめて優秀であることと、また、効果的なキャンペーンのおかげもあって、薬物に手をだす人が、他の国に比べると相対的に少なかったことも関係しているそうだ。

 ちなみに、アメリカでは、死ぬまでの間に1回でも違法薬物を使う国民は、全国民の48%(大麻含む)だが、日本の場合には1~2%程度。確かに、日本はちょっと事情が違うのかもしれない。厳罰主義ではまわらなくなった世界の趨勢の中で、従来のスキームがまだ有効であるともいえる。