診療報酬は厚生労働省マターだが、刑を執行する司法側でも動きがある。昨年(平成28年)6月から導入されている「一部執行猶予制度」だ。

「これまでは、覚せい剤で捕まると、初犯だったらまずは執行猶予になって、その期間中にもう1回捕まったら、2つの刑が加算され、3年間くらい刑務所に行ってました。でも、3年間行っても、出た後が一番危ないわけです。そこで、これまでは3年間刑務所にいたところを、1年早めに家に帰すと。そして、保護観察所の監督下で、地域でプログラムを受けなさいという制度です。つまり、一番、再使用の可能性が高い時期にプログラムを受けることになります。そのためには、地域の側でも出所者を受け入れる体制をつくらなければならないわけですけど、排除することよりも包摂していったほうが再犯率が低くなるのは、もう海外ではどんどんデータが出てますから」

 排除よりも、包摂。

 刑罰よりも、地域でのプログラム。

 従来言われていた厳罰主義ではなく、「依存症の治療」の面を重視しないと、再犯ばかりふえてしまうとはっきりと意識されるようになってきたのが、現在の状況だそうだ。

違法であっても合法であっても、依存症は治療が必要な病であることに変わりはない。
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 こういったことは、覚せい剤依存に限らない。

 松本さんの発言の中でも、しばしば、「違法な薬物依存」と「アルコール依存」が同じ文脈で出てきた。アルコールを摂取することは日本では犯罪ではないが、やはり容易に依存をもたらす。それどころか、アルコール依存の社会的な「規模」は、問題をかかえる依存症患者の数や、健康被害など、すべての面で、禁止されている薬物とは桁が違う。また、タバコのニチコン依存の問題もあるし、最近では、いわゆる「ギャンブル依存」のような、薬物によらない、しかし、深刻な依存の存在もよく話題になる。これらも、「治療」のサポートが弱いために、多くの患者が、周囲の人にあきれられ、見捨てられ、ついには社会性を破綻させ、人生をスポイルしてしまう。刑罰の有無は、もちろん大きな違いであるとはいえ、依存症という意味ではすぐ隣に横たわる問題だ。

 ここでは、松本さんが実際に臨床現場で携わり治療法の開発をしてきた、覚せい剤をはじめとする違法薬物に焦点を当てうかがっていくけれど、アルコールなど「合法な薬物」やその他の依存症のことも、常に意識しながら読んでいただければと思う。

つづく

松本俊彦(まつもと としひこ)

1967年、神奈川県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長。1993年、佐賀医科大学医学部卒業。国立横浜病院精神科、神奈川県立精神医療センター、横浜市立大学医学部などを経て、2004年、国立精神・神経センター精神保健研究所に入所。2015年より現職。『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』(講談社)『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)などの著書や、『SMARPP-24 物質使用障害治療プログラム』『よくわかるSMARPP あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)『大学生のためのメンタルヘルスガイド 悩む人、助けたい人、知りたい人へ』(大月書店)『中高生のためのメンタル系サバイバルガイド』(日本評論社)などの共編著書多数。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『雲の王』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)など。近著は、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、どこまでも遠くに行く宇宙機を打ち上げる『青い海の宇宙港 春夏篇秋冬篇』(早川書房)。また、『動物園にできること』(第3版)がBCCKSにより待望の復刊を果たした。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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