第4回 「分離脳」だから分かった感覚のつながりとは

時間の知覚が関係するときは、分離脳でも左右の脳がつながりをもつという結果を得た。脳梁がなくても左右の脳はもっと「下」の部分である皮質下ではつながっており、時間の知覚に関しては皮質下が関わっていることが示された。(画像提供:四本裕子)
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「やっぱり時間についての研究です。右視野と左視野に時々いろんなものを出しつつ、片方の視野に見えているものの時間を知覚してもらうんです。その時に、時間を知覚してもらうメインのオブジェクトと反対側の視野に妨害刺激みたいなものを出すと、ものすごく成績が悪くなるんです。見事に邪魔されてしまう。で、ここから何が言えるかっていうと、脳梁がない分離脳でも、下の部分でつながってるんですよね。サブコーティカル、皮質の下と書いて、皮質下と言われる部分です」

 手でものを掴むような運動については、大脳皮質が大いに関わっているので、ものをつかめなかったのだが、時間については脳梁とは別のところでつながっていたと! なお皮質下というのは、大脳(大脳皮質)の一部ではなく、生き物としてもっと古くからある部分だ。

「この結果にはすごく驚きました。でも、考えてみると、時間を処理する脳内メカニズムは、幅広くすべての動物が持っているわけで、そういう意味では、どんな動物でも共通した部分が、情報の伝達に使われているというのは、とても納得のいく結果だったんです」

 四本さんは、地味、地味というのだけれど、本当に地味だろうか。

 ふとしたところから、一気に、時間の情報処理をめぐる生命進化の歴史にまで視野が広がるのは、なにか本質的な研究を成し遂げた時の醍醐味だろう。

 とはいえ、やっぱり、脳のディテールや機能に関わる話は、ふだんからこの分野に関心がない人でなければ、理解するまでの負荷が重い。

 四本さんが最近かかわっている研究の中で、ひとつ表題レベルからして一般の関心が非常に高そうなものがある。

「脳の性差」だ。

 ナチュラル・ボーン研究者であり、“Born to be”研究者な雰囲気をまとう四本さんは、どんな手つきと語り口で、この「神話」に満ち満ちたテーマにアプローチするのだろう。

次回は脳の男女差に関する神話と真相をひもときます。
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つづく

四本裕子(よつもと ゆうこ)

1976年、宮崎県生まれ。東京大学 大学院総合文化研究科 准教授。Ph.D.(Psychology)。1998年、東京大学卒業。2001年から米国マサチューセッツ州ブランダイス大学大学院に留学し、2005年、Ph.D.を取得。ボストン大学およびハーバード大学医学部付属マサチューセッツ総合病院リサーチフェロー、慶應義塾大学特任准教授を経て2012年より現職。専門は認知神経科学、知覚心理学。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)と、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、夏休みのロケット競技会に参加する模様を描いた成長物語『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(早川書房)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。