第3回 ヒトの脳はどのように時間を知覚しているのか

「あくまで野望なんですけど、今それに関係する実験を、ちょっとだけやっていて、半ば失敗に終わりつつあるところです。例えば、さっきの聴覚で11ヘルツのトーンを聞くと、時間を短く感じましたよね。なので、学生に10分間ぐらいのつまらないタスクをやらせて、背景音で11ヘルツをずっと聞かせて。他にも音がない条件とかいろいろやって、今何分ぐらい、あなたはこのタスクをやっていたと思いますかみたいなことを聞いて測定してるんです。結果を言うと、11ヘルツを聞かせても、聞かせなくてもあんまり変わらなくて。そのレベルで縮めるのは、ちょっと難しいかなと思ってます」

 結局、時間の知覚は、一筋縄ではいかない。さっきは、視覚と聴覚の違いに着目したけれど、ここでは時間の長さのスケールも関係しているようだ。

 つまり──

 ミリ秒単位のごく短い時間帯では、小脳や運動野がはたらき、1秒を超えると視覚野や聴覚野がそれぞれ関与し、ずっと長くなって何日、何年というふうになると記憶がかかわってくる。

 時間の知覚とは、まさに脳をあげて行うもので、「時間帯」によって処理する部位が違いつつ、それらが時々、バッティングしつつも、結局は、シームレスにつながって「時間」といふうに感じられる。それ自体、驚異だ。

この図のように、ヒトが時間を知覚する方法は主に青、赤、黄色で色分けされた3つの時間帯により異なると考えられている。(画像提供:四本裕子)
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 なお、四本さんは、まだ「退屈な会議を早く感じさせる」仕組みを諦めていない。

「音で成功したら、退屈な会議が早く終わるCDみたいなのを売ろうと思っていたんですけどね(笑)。それが無理となると、次に試したいのは指先とかに小さなデバイスをつけて、ビリビリと振動させ続けたらどうだろうかと。身につけていてもわからないようなやつで」

 確信するのは、そんなデバイスができたら、世の中でほしがる人はたくさんいる! ということだ。ぼくもほしい。

 それから……ノーベル賞は無理かもしれなくても、イグノーベル賞ならすごく相応しい。世界を幸せにする、真面目でアホな発明(失礼!)になりうる。

つづく

四本裕子(よつもと ゆうこ)

1976年、宮崎県生まれ。東京大学 大学院総合文化研究科 准教授。Ph.D.(Psychology)。1998年、東京大学卒業。2001年から米国マサチューセッツ州ブランダイス大学大学院に留学し、2005年、Ph.D.を取得。ボストン大学およびハーバード大学医学部付属マサチューセッツ総合病院リサーチフェロー、慶應義塾大学特任准教授を経て2012年より現職。専門は認知神経科学、知覚心理学。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)と、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、夏休みのロケット競技会に参加する模様を描いた成長物語『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(早川書房)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。