東京大学大学院総合文化研究科准教授の四本裕子さん。
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「ありますよ」と四本さんは即答した。

「2015年に入賞した『スイングバイ錯視』っていうのがありましたよね。前段階のものを、2012年にわたし自身が見つけていて、これ不思議だよねって論文を書いてたんですけど、さらに実験をやって2016年になって出た論文が、まさにそれですね」

「スイングバイ錯視」は、直線運動をしているものが、くねっと曲がった軌道を描くようにみえる錯視だった。2012年に四本さんが見つけた錯視は、「グニャグニャ運動錯視」(Wriggle Motion Illusion)とでも言おうか。

「たくさんのドットが直線運動をしているだけなのに、グニャグニャ動いているように見える。ひとつのドットに色をつけて追いかけてみればちゃんと直線運動をしているのがわかりますよね。これは不思議な現象だなと、錯視が起こっている時の脳を調べてみました」

「グニャグニャ運動錯視」(Wriggle Motion Illusion)
白い点も実は直線運動をしているだけ。錯視コンテストでは2011年に入賞していた。(制作:四本裕子)
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 脳の模式図をディスプレイに表示して、四本さんは概略を説明してくれた。

「人間の脳には、頭の後ろ側に視覚皮質という部分があって、見たものに反応しています。その視覚皮質にも、すごく大きくいいますと、背中の側の経路、背側経路と、腹側の経路、腹側経路といわれるところがあって、これまで、運動しているものを見た時の知覚は背側経路が担うとされてきたんです。でも、この錯視の実験をすると、グニャッと曲がって見える軌道を伴う時には、腹側経路も同時に働いているんですよね。あのグニャグニャ感は、これまで言われていたよりも、もっと脳全体としてのネットワークの働きの結果だろうと、示唆されたということです」

 いわゆる、脳機能研究だ。

 四本さんの場合、主にfMRI(functional Magnetic Resonance Imagingの略で、日本語では、「機能的磁気共鳴画像法」などとも呼ばれる)という装置を使って、脳の働きを見る研究手法を取る場合が多い。

fMRI装置。短時間で済むというので川端裕人さんも「被験者」に。
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 駒場キャンパスには、研究専用のfMRI装置があり、比較的自由に使うことができる。医療用で普及しているものよりも高磁場(3テスラ)で、ノイズの少ないクリアな画像を短い時間で得られるそうだ。脳の形状を1ミリ×1ミリ×1ミリの分解能でスキャンするだけなら5分で済むというので、ぼく自身もその場で「被験者」になってみたのだが、本当に短時間だから、スキャン中の「狭い空間で工事現場のようにうるさい」状況もそれほど負担感はなかった。

 立体画像もほとんど瞬時にできあがり、自分自身の脳の形状や、神経細胞の層(灰色の部分)、連絡繊維(いわゆる軸索。白い部分)の様子をあらゆる角度でスライスして見られるのは、変な気分であると同時に感動的だった。

川端さんの脳のMRI画像。神経細胞層の灰色の部分が「灰白質」で、連絡繊維の白い部分が「白質」。連絡繊維が神経細胞に包まれているような構造になっている。連続的に複数撮影された写真は、PC上でパラパラ漫画のように見ることもできる。(画像提供:四本裕子)
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