――つまり、酸素ありのほうが楽だし安全ということ?

 必ずしもそうとはいえません。たとえば8000m以上の地点で酸素ボンベにトラブルが発生したとき、それまで酸素を吸いながら登っていた状態からマスクをはずすと、一気に危険になります。無酸素の場合は、登り続けていることでその場に合わせた高度順応ができています。しかし酸素ありのときはそうではありません。

――8000m地点でいきなり酸素なしになるということは、非常にリスクが高いですね。

 私は登りながら、自分の体がどういう状態であるかを注意深く観察しています。頭は痛くないか、吐き気はないか、指先の感覚は問題ないか。そして、少しでもおかしいと感じたら、すぐに下のキャンプあるいはベースキャンプまで下山して様子を見て、体調を整えます。自分の感覚を知って、判断することが登山では大切です。自分の体調を的確に判断するのは、看護師だったときの経験も生きていると思います。

――ほかに看護師の経験が登山に役立っていることはありますか?

 高所では遭難の現場に遭遇したり、死体が登山道にあったりと、ときどき登山者の死に直面し、ショックを受けますが、私は他の人より心のダメージから立ち直るのが早いかもしれません。それは、人の生と死を間近で見る機会の多い看護師であった経験が助けになっているのではないかと思います。

ゲルリンデさんの挑戦は、すばらしい仲間の存在と、自分の体に対する的確なケアがあって成り立っていたのですね。次は、ゲルリンデさんの現在、そして今後の登山について教えてください。

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つづく

ナショナル ジオグラフィックに登場したゲルリンデさんの記事

2012年4月号「K2 非情の山に魅せられた女性」
エベレストよりも困難と言われる世界第2の高峰、K2に挑んだゲルリンデさんたちの苦闘を描く。

リスクテイカー ゲルリンデ・カルテンブルンナー
危険を覚悟で自分の信じた道を突き進む「リスクテイカー」の一人としてミニ・インタビューを掲載。

ゲルリンデ・カルテンブルンナー

1970年、オーストリア生まれ。村の神父に連れられたことがきっかけで登山に開眼。23歳のとき、ブロード・ピークの山頂直前まで登った際に得た充実感により、高所登山への思いが募るように。看護師として働きながら時間と資金を作り登山を続けていたが、2003年にプロ登山家に転身。以来、毎年ヒマラヤ、カラコルムへの遠征を続け、2011年8月23日、K2に登頂し、女性初の8000m峰14座無酸素登頂を成し遂げた。
オフィシャルサイト http://www.gerlinde-kaltenbrunner.at/en/


西野淑子(にしの としこ)

1969年、山口県生まれ。大学卒業後、旅行ガイドブックを多く手がける出版社を経て、1999年よりフリーランスライター&編集者として独立。趣味は登山と茶道。登山は1999年からはじめ、現在は関東近郊の低山歩きから、アルパインクライミング、冬山登山など、オールラウンドに楽しみつつ、専門誌『山と溪谷』(山と溪谷社)(東京新聞出版部)などでも活躍している。主な著書に『東京近郊ゆる登山 (ブルーガイド)』(実業之日本社)、『女子のための!週末登山』(大和書房)、『もっと行きたい! 東京近郊ゆる登山 (ブルーガイド)』(実業之日本社)、『山歩きスタートブック』(技術評論社)などがある。

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