第1回 世界の「雪男伝説」をDNA鑑定してみた

 こういった錯誤をする人たちに、すべて悪意や企みがあったわけではない。「たいていの場合は、森の中で何かの吠える声を聞いたり、ときには石を投げつけられたりという、いわゆる『ビックフット体験』のようなものが背景にあるのだ」とサイクスは言う。そういう経験をした人が、茂みにからまった毛を見てビッグフットのものだと思い込むことは何も不思議ではない。

エベレスト登山隊が撮影した雪男の足跡と言われているもの。(Topical Press Agency/Getty Images)
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 とはいえ、雪男の遺物のDNA分析が、まったく不毛な結果を積み上げただけではない。体毛のDNAを使ってビッグフット、イエティ、雪男の正体を追い求めてきたブライアン・サイクスは、2012年になって、雪男伝説と古代のホッキョクグマの系統との特異な関係を突き止めた。

 研究に用いられた標本の一つは、フランスの登山家の一人が1970年代にインド北部のラダック地方で手に入れたものだ。またあるものは、10年ほど前に、ラダックから1290km離れたブータンで見つかった1本の毛だった。サイクスによれば、この2種類の標本から取ったDNAは、なんとノルウェーの北極圏で2004年に見つかった12万年前のホッキョクグマの顎骨から取った遺伝子の特徴と一致したと言うのだ。

 二つのサンプルが遠く離れた場所で発見され、また、その時期が比較的最近であるという事実から、この毛の持ち主は絶滅せず生き永らえている12万年前のホッキョクグマの子孫である可能性がでてきたのである。

 ヒマラヤに住む毛むくじゃらの怪物は前世紀から知られ、シェルパやヤク飼いたちがその足跡や頭皮、毛などを発見したと報告してきた。この怪物は猿に似た獣で、立ち上がるとその身長は5mになるといわれてきたが、実は大型のホッキョクグマの一種だったのかもしれない。食物の少ない山間地で生息できるのか疑問は残るが、最新のDNA鑑定は確かにそう語っている。

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