第1回 世界の「雪男伝説」をDNA鑑定してみた

 サイクスは、過去50年にわたって雪男のものではないかと言われてきた体毛や毛髪の断片を集め、分析した。そして標本中のDNAを、30万種以上の生物の遺伝子配列を記録した国際的なデータベース「GenBank」にある情報と照らし合わせた。比べたのはミトコンドリアDNAという母親によって伝えられる遺伝子である。

 サイクスらが世界各地の博物館や個人が所有する未確認生物の標本30点をDNA鑑定した結果は実に興味深いものだった。そのほとんどが、ありふれた動物の体毛であることがわかったのだ。

イエティの足跡からとった足型と言われるもの。(Russ Kinne/age fotostock)
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 ビッグフットの毛とされていた北米の標本のうち3点は牛で、羊、アライグマ、ヤマアラシの毛もあった。スマトラ島の類人猿オランペンデクの唯一の試料は、熱帯の森に棲む大型哺乳類バクのものだった。ロシアの中央アジアで見つかったアルマスティの標本3点は、実は馬の毛であることがわかった。中には、アメリカクロクマやアライグマの毛もあった。どちらもロシアには生息していない種で、これではつじつまが合わない。中には人間のものと判明した標本さえあった。テキサス州で見つかったビッグフットの頭髪とされるものが、実は普通の人間のものにすぎなかったのだ。

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