第1回 赤い惑星に人類が降り立つ日

火星にたどり着いた人間には、驚くような光景が待っている。(Lockheed Martin)
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 全体に赤みを帯びた地表を奇妙な形の影が横切る。うなりをあげていた着陸機のエンジンが出力を落とし、機体が完全に停止する。地球から数千万キロメートル、数百日間におよんだ旅は終わりを告げた。長い宇宙旅行の間、宇宙飛行士たちは身体の負担に耐え、精神的ストレスに耐え、社会的な重圧にも耐えてきた。これから彼らには人類として初めて火星に足を踏み入れるという極めて重要な任務が待っている――。

 舞台は2030年代の火星。米国では2030年代に火星に宇宙飛行士を送り込むというビジョンのもと、様々な計画が進められている。民間の取り組みにより、2020年代のうちに人類が火星に到達する可能性もある。たとえば、米スペースX社のイーロン・マスクCEOは、2025年に火星に到着する有人ミッションの計画を発表している。

■着陸地点はどこに?

 火星で人類が最初に降り立つべき地点はどこだろうか。主な条件の洗い出しはすでに終わっていて、米航空宇宙局(NASA)は具体的な着陸地点の検討に着手している。

 着陸の候補地点はNASAが定めたガイドラインをすべて満たしている必要がある。第一に、拠点となる場所の周囲100キロメートル以上が探査対象区域でなければならない。着陸地点は北半球でも南半球でも構わないが、緯度が50度以下の低緯度地域に限られる。また、3~5機の探査機の着陸が可能で、4~6人のクルーが約500ソル(火星日、火星の1日は24.6時間)にわたって任務を継続できるような環境が整っていることも必要だ。当然ながら、場所選びの最優先事項は安全に着陸できるかどうかだ。

有人火星探査の探査候補地域の一つであるメラス・カズマ東部。(NASA)
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 望ましい地点とは、探査部隊が任務を遂行できる条件が整った場所である。つまり、NASAが「関心領域」に指定した地域で科学調査を行えること、さらに火星で人間が生命を維持するための資源が手に入ることが求められる。後者の点でNASAが絶対条件として掲げる項目がある。それは水だ。例えば15年間火星に滞在するなら、少なくとも100トンの水を現地で調達できるようにしなければならない。

■豊富な資源を持つ惑星

 火星に足を踏み入れることに成功したら、この世界で自給自足できるように足固めをする番だ。そこで必要になるのが、現地資源の有効活用(In-Situ Resource Utilization)。略して「ISRU」と呼ばれる。ISRUは宇宙開発分野で使われる用語で、ひたすら我慢の生活ではなく、快適な暮らしを目指した現地での技術利用を意味する。

 ケネディ宇宙センターの科学技術プロジェクト部門上級技術者、ロバート・ミューラー氏によれば、火星の水と大気中の二酸化炭素は有人ミッションにおいて最も貴重な資源になると見込まれているという。これらの資源があれば、マーズ・アセント・ビークル(火星上昇機)でクルーが地球に帰還するための推進剤を作り出すことができるからだ。

 そして、火星には簡単に集められて、加工にも適した資源が豊富に存在する。メイド・イン・マーズの製品は、火星で生命を維持し、作物を栽培し、放射能から身を守るために役に立つはずだ。とはいえ、最終的に火星のどこを居住地として選ぶかは、そこに人間の生命を支えるために利用できる資源の種類と有無によって大きく左右される。

 火星の水に関しては、良いニュースがある。長年の研究の結果、火星では何種類もの水源候補が見つかっており、そのうちの2つには必要な量の水が蓄えられている可能性があるという。1つの候補は地下の氷。もう1つは永久凍土や、粘土・石膏など含水鉱物の形で岩や粒の細かい土に蓄えられる水だ。

フェニックス着陸機が掘った溝の中には、朝霜と、地表の下から現れた氷が見えた。(NASA/JPL-Caltech/University Arizona/Texas A&M University)
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 さらに、季節によって現れたり消えたりする水の流れた跡らしきものが発見され、これまでに知られている以外にも水源が存在する可能性が浮上している。この跡は「繰り返し現れる斜面の筋模様(Recurring Slope Lineae)」と名付けられ、略して「RSL」と呼ばれる。発見されたRSLは断続的に水が流れた痕跡だと考えられている。

 ただし、その水は塩分を含んでいるようだ。RSLから水が手に入ったとしても、人間の使用に適しているかどうかは調べていかなければならないだろう。

『マーズ 火星移住計画』

現実味を帯びてきた火星有人探査・移住プロジェクトの全容を美しい写真・イラストとともに解説。

 レオナード・デイヴィッド 著
 関谷 冬華 訳
 230mm×276mm、288ページ
 定価:本体3,200円+税

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