第6回 「彗星ヒッチハイカー」と「氷衛星の中心への旅」

 さて、1982年生まれの小野さんにとって、現在の仕事は、将来「初期の仕事」として語られるものになるだろう。やがて、中堅になり、シニアの研究者になり、大きなプロジェクトを率いたりもするだろう。これから何十年にもわたって続く宇宙探査研究生活の中で、小野さんが目指すものとは。

「やっぱり、僕は死ぬ前に地球外生命の発見を見たいんです。で、その発見に自分の仕事が少しでも貢献できれば、それほどうれしいことはないんです」

 小野さんは、まったく迷う素振りもなく即答した。

 近年生命の存在(少なくともその痕跡の存在)への期待が高まっている火星探査。惑星探査の可能性の幅を広げる「彗星ヒッチハイカー」。地球以外の太陽系天体で、生命の存在可能性が一番高いと言われる土星の月エンケラドゥスにおいて、氷に覆われた海の探査を目指す「氷衛星の中心への旅」。それらは、すべて宇宙における生命の発見に直接かかわるものだ。

「やっぱり、生命を見つけるって、人類の根源的な問いじゃないですか。だって、今のところ、地球の生命系、人類って本当、宇宙にひとりぼっちですよね。僕が好きなたとえでいえば、地球文明、地球の生態系ってみなし子なんですよね。どういうふうな生まれ育ちなのかわかってない。生命っていう現象が必然か偶然かもわかってない。もしも、宇宙に第2の生命の起源が見つかれば、これでその生命という現象を比較して研究できるわけですよ。ここまでが偶然、ここまでが必然って、偶然と必然を分離できるんですよね。案外、生命というのは、環境さえ整えば、すぐ発生するものなのかもしれないし、ものすごい偶然なのかもしれないし。それで、もしも環境さえ整えばどこでも発生するものならば、何でじゃあ発生するのかっていう次の問いにいきます。もしも本当に地球はひとりぼっちなんだってわかったら、何でうちらにはこんな恐ろしい偶然が起きたのかっていう問いにいきますし、やっぱり文明、科学が次の問いにいくために、絶対通るべき問いがこれですよね」

 ぼくも、まったくもって合意なので、付け加えるまとめの言葉はない。

 小野さんのこれからの活躍に期待してやまない!

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おわり

小野雅裕(おの まさひろ)

1982年、大阪生まれ。2005年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進研究所に研究者(research technologist)として勤務。著書に『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』がある。2016年11月現在、『小山宙哉公式サイト』で「一千億分の八」を連載中。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)と、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、夏休みのロケット競技会に参加する模様を描いた成長物語『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(早川書房)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。