第6回 「彗星ヒッチハイカー」と「氷衛星の中心への旅」

「土星の衛星のエンケラドゥスって、表面を10キロの氷が覆っていて、その下に広大な海があるって分かっていて、その海に生命がいるかもしれないといわれています。太陽系で、今、生きている生命がいる確率が一番高い場所です。どうやって行けばいいと思います? 氷を解かしていくってアイデアもあるけど、10キロも氷を解かすってどうするんだろうなって思うわけです。実はもう既に穴があいていることが分かっていて、そこから水蒸気が噴き出しているんです。じゃあ、そこから入ればいいじゃないか、と。難しいのは、噴き出してくるのが高速のジェットだということ。もう一つは、穴の幅が大体10センチぐらいなんじゃないかって言われてるんですね。つまり、ちっちゃいロボットが、超音速の流れに逆らって、這っていかなきゃならないわけです」

土星の衛星エンケラドスの内部構造のイメージ。発生した水蒸気が厚い氷の殻を貫いて放出される様子。(Image:NASA/JPL-CALTECH)
土星の衛星エンケラドスの内部構造のイメージ。発生した水蒸気が厚い氷の殻を貫いて放出される様子。(Image:NASA/JPL-CALTECH)
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 このアイデアの実現性を調べるために、小野さんは、火山の流体モデルの専門家や、ロボティクスの専門家と組んで、研究を進めている。

「まず火山の専門家が持っている火口の流体モデルを使って、すでにある観測された数値と照らし合わせて、流量、密度、温度とかがどの範囲に収まるかを見ますね。現状、出てくるジェットの速さかはもう分かっていますけど、どのくらいの流量、密度、温度なのかはわかってない。その上限・下限を見ます。それから、ロボティクスのほうは、氷にしがみつく機構とかを考えるんですよ。例えば、この機構ならばどれぐらいの圧力に耐えられるとか検討するわけです。それで、流体モデルから分かったジェットのパラメーターの上限・下限と、ロボットが耐えられる範囲の上限・下限がかけ離れていたら、これは無理だねっていうことになるし、なんとかなりそうなら、じゃあ、もうちょっと研究しようかっていうことなんですよね」

 NIAC(NASA革新的先進的構想、みたいな意味)では、1年(実質9カ月)の研究をまずしてみて、もうちょっと深掘りしてみたほうがよい成果が出てきたものについては、2年目の予算を付けることになっている。小野さんの「彗星ヒッチハイカー」は1年目のフェーズ1で終了した。「氷衛星の中心への旅」が2年目のフェーズ2に進めるかどうかは、こういった実現可能性をどれだけリアルに描き出し、新たな検討課題をはっきりさせられるかにかかっているのだろう。マーズ2020の仕事を着実にこなしつつ、ぜひこちらも実り多い成果を出していただければと願う。