第6回 「彗星ヒッチハイカー」と「氷衛星の中心への旅」

「彗星って、太陽系を縦断するみたいに飛んでいくわけです。それに飛び乗ることができれば、太陽系のはてまで燃料を使わずに飛んでいけるじゃないですか。それで、考えたのは、宇宙船に長い紐と銛を積んでいて、彗星の近くまで行って、彗星に銛を打ち込んで紐の一端を固定するんです。そして彗星に引っ張ってもらう。もちろん、急に引っ張られては紐が切れてしまうし、急な加速のせいで宇宙船が壊れてしまうかもしれないので、魚釣りと同じ要領で、張力を保ちつつ紐を繰り出していけばいいと。十分な長さの紐があれば、いずれ宇宙船は彗星と同じ速度まで加速していけますよね。で、もっと考えると、同じ仕組みをブレーキにも使えることに気付いたんです。たとえば冥王星を通り過ぎるときに銛を打ち込み、紐を繰り出しながら減速して止まればいいって」

 小野さんがプロジェクトの説明をする動画をネットで見たが、「日本人と銛(ハープーン)」というと捕鯨みたいなイメージがあるようで、その関連のジョークが飛びつつも、和やかで興味津々の聴衆に対して、小野さんはエネルギッシュに語りかけていた。

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 NIACの予算がつき、1992年にはじめてKBOを観測したことで著名な天文学界の重鎮、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のデビッド・ジューイット博士までメンバーに引き込んで(小野さんは業界の大御所に給料を支払う立場になった!)、9カ月間の研究を行った。フィージビリティ研究といって、そのアイデアにどれだけの実現性があり、問題点はここで、というふうに洗い出すものだ。

「最大の課題は、ものすごい強力で長い紐が必要なわけです。たとえば、素材としてはカーボンナノチューブですね。それを何百キロもつなげたものを彗星にひっかけるわけです。そこにテクニカルな難しさがあって、少なくとも今知られているカーボンナノチューブで支えると、どんなに頑張っても秒速10キロメートルくらいのものに飛び乗ったり、減速したりするのが限界です。でも、これじゃたりないんです。将来、もっともっと強い素材ができて秒速100キロメートルに耐えられるものができれば、太陽系のはるか遠くの小天体の探査を可能にする技術になるかもしれないですよ」

 なお9カ月の研究の結果、地球近傍で彗星を捕まえるというよりも、むしろ、目標天体に達した時の減速のための技術としてより有望であるという結論になった。たとえば、冥王星の周回軌道に入るためには、秒速12キロメートルの減速をする必要がある。時速にすれば4万キロ以上からの大ブレーキだ。だから、減速技術は重要で、紐と銛を使った方法は将来的なオプションのひとつ足りうる。

 以上が、2014年の研究、彗星ヒッチハイカーの概要。

 さらに、小野さんは、2016年のNIACにも応募し、見事に2度目の研究費を射止めている。これはまさに現在進行系の研究で、テーマは"Journey to the Center of Icy Moons"、「氷衛星の中心への旅」。これは、ジュール・ヴェルヌの『地底探検』(Journey to the Center of the Earth)にかけてある。