第4回 ここがすごい!「マーズ2020」火星探査計画

「例えば、着陸のときに、今まではほぼ、当てずっぽうに降りてたんですよ。でも、今回は、降りながら地形認識をして、『あ、今危ないほうに向かってる』ってなったら、ロケットエンジンをふかして回避する技術があったりとか。それから、ぼくがやってる火星の自動走行アルゴリズムをアップデートするとか。今までは、なにかやりたいことがあっても、探査機の機械的な性能がボトルネックになっているのが多かったけども、だんだんソフトウェア、頭の良さを求めるようになっています。動物だって、最初はハードウェアを進化させてきたけども、人類が成功した革命って、ハードウェアからソフトウェアに焦点を移すことです。同じことが宇宙探査をするロボットにも起きるはずなんですよ」

危険な地域を回避するマーズ2020で計画中の着陸ナビシステム。(Image: NASA/JPL-Caltech)

 そして、生命の探査のため企図する最大の目標とは──

「今、僕たちが、究極的にやりたいのは、火星の土のサンプルを持ち帰る、サンプルリターンなんです。マーズ2020では、そこまでは行かないんだけど、もしかしたら、そのための第一弾になれるんです。火星でサンプリングした岩を試験管に入れてまとめたものを、置いてくるんですよ。それで、もしも、NASAがその先のミッションにお金つけてくれれば、試験管を持って帰ってこれるかもしれない、と」

複数のサンプルを集めて保管する具体的なコンセプト「Adaptive Caching」。緑色の点のところでサンプルを収集し、ひし形の場所で保管する。×の地点は着陸地点。(Image:NASA/JPL-Caltech/Cornell Univ./Arizona State Univ.)
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サンプル保管システムの試作品。(Image:NASA/JPL-Caltech)
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 たしかに、火星の土壌の中に生命がいるかどうか知りたければ、直接、手元に試料をおいて研究するのが手っ取り早い。しかし、日本のはやぶさが小惑星から微量の標本を持ち帰ったのに比べて、火星のからのサンプルリターンは格段に難しい。実現すると、本当にすばらしい。

「ほんと、マーズ2020で、火星の30億年前の生命の痕跡ですとか、何かしらおもしろいものが出てきたら、これは興奮しますよね。それに、もしもね、さっき言ったNASAがその後のミッションを許してくれて、火星の土が地球に帰ってきたら、これはすごいことですよ。サイエンティフィックにもすごいことになるし、エンジニアリングとしてもすごい!」

 小野さんの言葉にも熱が入る。

つづく

小野雅裕(おの まさひろ)

1982年、大阪生まれ。2005年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進研究所に研究者(research technologist)として勤務。著書に『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』がある。2016年11月現在、『小山宙哉公式サイト』で「一千億分の八」を連載中。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)と、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、夏休みのロケット競技会に参加する模様を描いた成長物語『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(早川書房)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。