とはいえ、マリファナは連邦法で違法薬物扱い(前回参照)なので、連邦機関による患者や医師、薬局の捜査はその後も続いた。麻薬管理局が、〈医療用マリファナ〉合法州内での検挙や逮捕を控え始めたのはこの数年のことである。

 ゴールドスタイン医師が続ける。

「過去10年間で状況は大幅に改善しました。ですが、今でも私たち医師の活動は制限されています。たとえば、医師は『医療用カンナビス推薦書』は発行できても、カンナビスの処方箋や、患者への投与は禁じられています。医師にできるのは、カウンセリングとアドバイスまで。それに、カンナビスには医療保険も適用されません。だから患者の経済的負担は大きいのですが、それでも患者が求めてやまない現実が、〈医療用カンナビス〉の必要性を語っていると思います」

 ここまで語ると、ゴールドスタイン医師は最後に、「あくまで私見ですが」と言いながらマリファナ反対派の背景を解説した。

「残念ながらこの80年間というもの、カンナビスは有害だという情報が政治的に宣伝広報されすぎました。その流れで医学界は未だに、カンナビスは薬ではなく乱用ドラッグなる考えに固執しているし、医師の卵にもそう教育し続けています。これでは変わりようがないのです。カンナビス研究はまだ歴史が浅く、研究や臨床は慎重に進めるべきという考えに異論はありません。しかし、マリファナ反対派に、大企業の思惑が絡んでいることも見逃せません。マリファナは、誰もが簡単に栽培できる丈夫な植物。そういった植物が普及したら、製薬会社や保険会社はどうなると思います?」

つづく

「ナショナル ジオグラフィック 生き物の不思議な力」
ナショナル ジオグラフィック日本版2015年6月号で大反響のあった特集「マリファナの科学」をはじめ、驚きに満ちた生命の世界を存分に味わうことができる1冊。
定価:本体1,200円+税
サイズ:A4判(297×205mm)
132ページ、ソフトカバー

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柳田由紀子(やなぎだ ゆきこ)

1963年、東京生まれ。ジャーナリスト、ライター。早稲田大学を卒業後、新潮社に入社。’98年スタンフォード大学他でジャーナリズムを学び、2001年に渡米。カリフォルニア州ロサンゼルス郊外に暮らす。『二世兵士 激戦の記録:日系アメリカ人の第二次大戦』(新潮新書)、『太平洋を渡った日本建築』(NTT出版ライブラリーレゾナント)、『アメリカン・スーパー・ダイエット―「成人の3分の2が太りすぎ!」という超大国の現実』(文藝春秋)などの著書、『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』(集英社インターナショナル)、『木槿の咲く庭ースンヒィとテヨルの物語』(新潮社)などの訳書がある。2016年11月現在『新潟日報』で「スティーブ・ジョブズが愛した禅僧―乙川弘文」を連載中。
公式サイト:http://www.yukikoyanagida.com/

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