Episode3 船酔いノックダウンで、神のふところへ
迷路のような多島海、デソレーション・サウンドの中は、電話もつながらなければ、場所によっては無線もつながらない。
もちろんのことだが、村もなければ、食料を補給するストアーもない。
船の冷蔵庫には、当面の肉が冷凍してあるが、せっかく生けすのような魚影の濃い海域にいるのだから、私は真剣に、自給自足的採取を試みることにした。
この海域で獲れる海の恵みは、まず牡蠣である。
バンクーバーの街にはオイスターバーがいくつもあるくらいに、この辺りは牡蠣が有名である。
その多くは養殖だが、天然の牡蠣も豊富に取れる。
私は以前、バンクーバー周辺の島で、星の数ほどゴロゴロと牡蠣が転がっているビーチを歩いたことがある。ほとんど、牡蠣を踏みつけながら歩いているようだった。
いくつか持ち帰って食べてみると(この行為もフィッシング・ライセンスが必要)、カナダ西海岸の海は養分が豊富なため、中身がバケモノのように大きく、2つほどでお腹がいっぱいになった。
この周辺海域は、海水が暖かくなる夏頃になると、赤潮が発生しやすく、一度赤潮にやられると、貝類は毒化してしまうため採取には注意が必要となる。
カナダという国はなにかと親切な国なので、この貝の採取に対しても注意報を出してくれている。
そこで私は、あの熊と鉢合わせになったラグーンコーブで、貝の注意報をチェックしておいた。
その情報によると、この辺りの海域は、まだ赤潮が発生していないために、貝類の採取が可能ということだった。
さっそく潮の満ち引きの時間を調べる。
ところが、潮が引くのを待ってみると、アンカリングをした入り江の岩肌には、一つも牡蠣が付いていなかった。
その後も、まったく牡蠣には出会えなかった。
ならば、釣りである。
海を旅するなら刺身は欠かせない。これは、言うまでも無く、日本人の習性である。
魚がいそうな場所で船を漂流させて、ルアーを投げてみた。