実は、この辺りの海域は、アトランティックサーモンという、本来は大西洋を回遊している鮭の養殖が盛んに行われている。
 南米チリやオーストラリアでも、盛んに養殖されている種類である。
 あのクレムツ村を案内してくれたジョージが、若者の雇用が生まれ、村に若者たちが戻ってきたと喜んでいた養殖所もまた、このアトランティックサーモンを養殖しているのである。
 けれどこれは、米国側アラスカにとっては、直ちにやめてほしい迷惑事なのだった。
 なぜならば、破損した養殖網から逃げたアトランティックサーモンが、もともと生息している北米海域の鮭と交雑してしまう可能性があるからである。
 しかも、問題はそれだけではない。
 養殖所で使われている抗生物質などが、海洋汚染につながっているとも言われているのだ。
 バンクーバーの大型スーパーなどに行くと、このアトランティックサーモンの切り身は、普通に並んでいるが、こうした背景のもとに流通しているのである。

 しかし、このハートリー・ベイで行われているコーホーの稚魚の養殖は、毎年水揚げする数を減らさないためのもので、卵をふ化させ、稚魚が十分な大きさになるまでの養殖である。
 これはカナダ政府による事業で、その稚魚たちの放流方法が、これまた驚きだった。
 作業員たちと話をしていると、遠くからパラパラとヘリコプターのブレードの音がしてきて、あっという間に、頭上にやって来た。
 ヘリのブレードが出す風は、まるで台風のように私たちを直撃し、ルカの大きな耳が、パタパタと羽ばたいていた。
 そのヘリは、ワイヤーで稚魚の水槽を釣り上げると、あっという間に空の彼方に消えていった。
「あの稚魚たち、どこに行くの?」と、私は作業員に尋ねた。
「森の湖まで運んで、上空でバケツをひっくり返して、稚魚たちを空中散布して放流するんだよ」と言い、「空飛ぶ鮭だよ」と作業員たちは笑った。

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 カナダを北上すると、ちょうどサーモン・ラン(遡上)も始まっていて、水面を飛び跳ねる鮭の姿をよく見るようになった。
 カナダの普通のフィッシング・ライセンスには、鮭を釣る権利が含まれていないので、追加料金を払って、「サーモン・タグ」と呼ばれる鮭専用のライセンスを購入する必要がある。
 私たちは、そのライセンスを前もって取得していたので、さっそく鮭の仕掛けを流して、トローリングをしてみることにした。

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