出航は、早朝。深い濃霧に包まれていた。
 その霧の中を、視界不良中の航行を示す、「長音一回、短音二回」の、フォグホーンを、吹き鳴らしながら慎重に進む。
 豆腐屋のラッパのような、銅板を丸めただけのフォグホーンを口に当てると、金属の臭いが口の中に伝わり、酷く不味い。
 霧に包まれると、体がしっとりと湿り、寒さも尋常ではなかった。
 霧の中でも、ポーパス(ネズミイルカ)が遊びにきた。
 しかし、この状況では、それどころではない。

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 細長く、浅い水路であるメイヤーズ・パッセージを抜けると、一気に太平洋に開けているラレド海峡に出る。いきなり速い潮の流れが、船底にぶつかり、船が大きく揺れ、度々舵がとられた。
 沿岸を舐めるように回り、プリンセス・ロイヤル島の深部へとつづく長い水路、ラレド・インレットに入っていく。
 スピリット・ベアが現れそうな、沢地のある小さな湾に入って、アンカリングできそうな場所を探る。
 しかし、どこもドン深く、アンカリングに適した条件を満たした海底ではなかった。
 沿岸ガイドブックにも、この島の西側の情報は、ほとんど載っていない。手探り状態である。
 結局、インレットの奥地ではアンカリングができないために、戻って入口付近の小さな湾に、アンカリングすることにした。
 ルカと共に上陸をして、その湾に広がる砂浜を歩いていると、かつてインディアンたちが、鮭の追い込み漁をしていた生け簀のような跡が残されていた。
 果たして、ここにスピリット・ベアは現れるのか?

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