Episode9 スピリット・ベア島の不都合な真実

 その会話の多くには、皮肉が含まれていて、この周辺の村は、スピリット・ベア観光の恩恵を得ている一方で、彼らにはどこか割り切れない思いもあるようだった。
 確かに、彼らの伝説である精霊の熊を、観光客の見世物にすることに、抵抗を感じる人もいるだろう。
 辺鄙な地域の小さな村にとって、観光業は貴重な産業となる。雇用も生まれる。
 しかし、伝統や文化、自然の摂理が失われていく側面もあるのだ。

 ただしそれは、観光客の入島を許しているプリンセス・ロイヤル島の、東側沿岸部の話である。
 フェリーや観光船が往来するインサイドパッセージに接しているため、スピリット・ベア鑑賞ツアーのほとんどが、東側沿岸にお客を連れて行く。
 その反対側の西側沿岸部は、外海となる太平洋に面しているので、常に強い風と潮、うねり、波浪に見舞われ、ほとんどの船舶は、ここを避ける。

 だったら私は、あえて、西側沿岸部に行きたい!

 東側のツアー客が簡単に見られる、見世物的スピリット・ベアを見たところで、私にとって全く意味がないのだ。
 この熊の自然な生態を確認するなら、西側沿岸部である。
 しかし、船長のスキッパー・ボブは、眉間にシワを寄せて唸っていた。
 それもそのはず、安全航行が保証されるインサイドパッセージではなく、太平洋の波浪にさらされる外海の沿岸部に行きたいというのだから当然である。
 それは、船酔いうんぬんということではなく、荒波を乗り越える船のダメージを考えてのことである。
 この海域では、北からの風と、太平洋からの潮で、船首を叩きつけるような高波が立つことがある。
 故障を修理できる場所が近くにあるわけでもない海域では、船の責任者として、取るべきリスクではなかった。

 けれど、私は必死に説得した。必死は、人の心を動かす。
 苦渋の困った顔を見せていた船長だったが、行程調節を行って、プリンセス・ロイヤル島の西側沿岸部を行くことを決めてくれた。

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