Episode9 スピリット・ベア島の不都合な真実

 今でこそ、カナダ・バンクーバー空港に行けば、「スピリット・ベア」の土産物が多く置いてあって、観光の一部になっているが、私が最初にカナダに渡った1998年頃には、まだ、あまり知られていなかったように思う。
 私がその存在を知ったのは、当時カナダの図書館にひっそりとあった、ジオグラフィック・カナダが制作したドキュメンタリー映像である。
 映像を見た瞬間から、私はこの白い熊に会いに行きたいと強く願っていた。
 ところが当時は、自分で船をチャーターして行くしか方法がなかったのである。

 今は時代が変わって、スピリット・ベア観光ツアーなども頻繁に開催されているため、ツアーに参加すれば、誰でもこの熊を見ることができる。
 鑑賞場所には、安全に見るための高見台も作られていて、今では、スピリット・ベアのアマチュア写真も、多くネット上に氾濫するようになった。
 時々、テレビ番組やドキュメンタリーなどで、「滅多に見ることができない、幻の熊の姿をとらえた!」とか、「我々は、待って、待って、ようやく、神秘の熊に出会えた!」など、大袈裟なものもあるが、実は、この熊を見るのは、それほど難しいことではないのである。

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 クレムツ村の給油所で、鮭漁から帰って来た村のオジサンたちと、こんな会話になった。
「スピリット・ベアが見たいのか?」
「はい」
「すぐに見せてやれるよ。俺たちは、スピリット・ベアを檻に入れて、観光客が来ると、檻から出すんだ。だから簡単に見られるぞ。がははは(笑)」
 それは冗談なのだが、スピリット・ベアのほとんどは、鮭が豊富に捕れることで縄張り競争もなく、いつも同じ場所にいるから、彼らは、どこにスピリット・ベアがいるのかを把握していて、簡単に観光客を喜ばせることができると言うのだ。

 一番大声で笑っていたオジサンが、これまた大きな声で言った。
「スピリット・ベアのお陰で、丸儲けしている村人もいるよ。漁師をやめて、ツアーガイドをやっているんだ。俺もガイドになるかな? がははは」
 隣の男性も言う。
「鮭漁は、俺たちの大切な文化だぞ。漁師をやめるなんて……、俺には考えられないことだ。そんなのは、許せない」
 また、別のオジサンもこう言った。
「スピリット・ベアを見たかったら、ここから5マイルほど先にある小さな湾に行ってみな。ツアーガイドの連中が、観光客のために餌を撒いているから、それを見るのも楽しいぜぃ。がははは」